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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
四、疾風迅雷! キグルミオン!
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四、疾風迅雷! キグルミオン! 8

 ヒトミの体が宙に投げ出される。キグルミオンの羽も何もない巨体が空に舞った。

 ヒトミに攻撃を()けられた宇宙怪獣が空中で身を反転させた。その動きはどこか今まで以上に機敏(きびん)に見えた。自ら空を飛ぶ手段を放棄したキグルミオンに、宇宙怪獣は勝機を見つけたのかもしれない。

「無防備な上に、無力ね……空の上って……」

 ヒトミが地球の重力に身を任せながらつぶやく。ヒトミの髪が慣性の法則に(のっと)って、キャラスーツの中でまるで持ち主の興奮を表したかのように逆立っていく。その瞳には鬼気迫る勢いでこちらに向かってくる宇宙怪獣の姿が写っていた。

 宇宙怪獣はキグルミオンに牙をむかんとぐんぐんと近づいてくる。

「でも――何か、自由!」

 ヒトミはそう叫ぶと身をひるがえす。牙をむく宇宙怪獣をキグルミオンが空中で身をよじって避ける。

 宇宙怪獣のむかれた牙は(むな)しく(くう)を切って()み合された。だがすれ違い(ぎわ)に広く(ひろ)げた翼をぶつけて宇宙怪獣は去っていく。

「ぐは……」

 ヒトミがその衝撃に思わず肺から空気を()らしたようなうめきを上げる。

 やはり好機と見たのか宇宙怪獣はすぐに反転した。

 ヒトミの目がそれを追う。

「ヒトミちゃん! 高高度気球! 第一射! 第一弾! 足下すぐ!」

「はい!」

 久遠の声がキグルミオンの中で不意に再生され、ヒトミは宇宙怪獣から視線を逸らさずに答えた。

「ぐふふ……タイミングよし……」

 美佳の不敵な声がこちらもキグルミオンの中で再生される。

 そして宇宙怪獣がキグルミオンに襲いかかる瞬間――

「――ッ!」

 ヒトミは空で不意に足場を()

「うおおおおぉぉぉぉっ!」

 後ろに退いた足を気球の天頂部分にめり込ませて拳を繰り出した。



 キグルミオンの足が足下で急速に展開した高高度気球にめり込んで着地する。キグルミオンの落下する巨体を受け止めた高高度気球が、その衝撃で大きくへこんだ。

 キグルミオンの勢いを受け止めた気球が空中で一瞬沈む。ヒトミは己の足を()じ込むようにして、気球の天頂部分で踏ん張った。

「うおおおおぉぉぉぉっ!」

 そしてかりそめの大地を得たキグルミオンは、襲いくる宇宙怪獣に右の拳を繰り出した。

 宇宙怪獣の側頭部にキグルミオンのフワフワでモコモコの腕がめり込む。

 足下の気球はキグルミオンと宇宙怪獣の衝撃を受け止めることができなかったようだ。ヒトミがめり込ませた足先に突き破られ、高高度気球が破裂した。

「――ッ!」

 反撃を予想できなかったのか、宇宙怪獣が声も上げることもできずに身をよじる。

 飛んできた勢いをキグルミオンの拳に殺された宇宙怪獣が、慌てたようにその場で翼を羽ばたかせた。

「オリャッ!」

 だが気球の破裂で足場を失い、再度宙に投げ出されたヒトミが、宇宙怪獣が飛び去ろとうする一瞬前にその尾をつかんだ。

 宇宙怪獣が驚きに目を見開き、大きく一度羽を羽ばたかせて(おのれ)の尾に振り向いた。宇宙怪獣は己の尾がつかまれているのを確認すると、相手の手を振り払わんと身を激しくよじり更に羽を()ばたかせる。

「離すかぁ!」

 だが再び気球の浮力を失ったキグルミオンに、宇宙怪獣は抵抗も(むな)しく引かれるままに落ちていく。

「ヒトミちゃん! 高高度気球、第一射、第二弾! 足下! 直下! 十三秒後、展開! 十五秒後、接触!」

「はい!」

 キグルミオンの中で再生された久遠の声に(こた)えると、ヒトミは一瞬だけ下に顔を向けた。他のどれよりも燃料を激しく燃焼させたカプセルが飛び込んでくる。

「カウントダウン……」

 今度は美佳の声が再生されると、ヒトミの視線の位置に空中で秒読みが表示された。秒読みは『十五秒』と表示された瞬間から見る見る減っていく。

 激しく身を捩り続ける宇宙怪獣。その翼竜然とした尾をヒトミは更に引き寄せる。

 宇宙怪獣は羽を大きく広げた。ヒトミとの道連れのような落下に抵抗しようと、その羽を闇雲に羽ばたき始める。

「ふん、頑張るわね! でも、あなたの羽はグライダーみたいなモノ! 羽ばたきはこんな時には役に立たないわ! もちろん計算にも入ってるしね!」

 久遠の声が鼻息も荒く再生される。

 実際宇宙怪獣は抵抗も(むな)しくキグルミオンにその身を引き寄せられながら落ちていく。

「美佳ちゃん! 予定に変更なし!」

「了解……第一射第二弾、展開……」

 ヒトミの足下でカプセルが破裂した。中の気球が一気に展開され、分裂したカプセルの残骸を四方に放り出していく。

「おりゃっ!」

 ヒトミは展開して()ぐの気球の天頂に着地する。ヒザを曲げて衝撃を吸収すると、その勢いも利用して宇宙怪獣の尾を一息に引き寄せた。

「ぬおおおおっ!」

 ヒトミが宇宙怪獣の腰をがっしりとつかむ。

「次! 東、二十メートル向こう! 飛んで! ヒトミちゃん!」

 久遠の指示がキグルミオンの中で再生される。

 それと同時にキグルミオンの体重と激突の衝撃からか、足下の高高度気球が破裂した。久遠はこの破裂を見越していたのだろう。

「はい!」

 久遠の指示とともに天頂部分から飛び降りたヒトミは、気球が破裂する寸前に宇宙怪獣もろとも三度空中に身を投げ出した。

改訂 2025.08.05

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