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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
四、疾風迅雷! キグルミオン!
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四、疾風迅雷! キグルミオン! 1

改訂 2025.08.02

 宇宙怪獣の顔面にめり込んだキグルミオンの右の(こぶし)は、その厚いヒフと硬い骨を(つらぬ)かんばかりに振り抜かれた。

「ぬうううぅぅぅあああぁぁぁぁっ!」

 キグルミオンの戦う中の人――仲埜(なかの)(ひとみ)の雄叫びが、夕闇(せま)る薄やみの街に響き渡った。

 その雄叫びを聞き届けたかのように、太陽が最後の陽光を放って沈む。

 同時にビルの屋上で一斉に照明が(きら)めき、いまだ拳を構えたままのキグルミオンを下から照らし出した。巨大な猫の着ぐるみが(かげ)を作って拳を天に突き出す。

 人類が古来より馴染んだ月よりも、人間の英知がもたらした人工の光よりも、夜空を煌めかせるのは天空に横たわる茨状(いばらじょう)発光体だ。

 それは優美な曲線を描きながら、天空を二分するかのように流れるように夜空に渡っている。方々より伸び出る茨状(いばら)の突起。神の茨の冠とも、女神の瞳の睫毛(まつげ)とも、天罰の為のムチとも言われる発光体が昼間以上に(またたき)き始める。

 ヒトミの拳が丁度その茨状発光体を打ち抜くかのように突き出されていた。自らがつるされていた鉄骨を(あめ)のように曲げ、その力を見せつけるように

「ヒトミちゃん!」

 その茨状発光体に誰よりも(けわ)しい目を向ける科学者――桐山(きりやま)久遠(くおん)の声がキグルミオンの中で再生された。

 音声にやや遅れてモニタが点灯し、生来のつり目を更に険しくつり上げた久遠の顔が大写しにされる。自由落下訓練を行った旅客機内のコックピットに移ったようだ。計器類を背に無線をマイクを手にして久遠は真剣な眼差しをモニタに写し出す。

「博士! 隊長を!」

「分かってるわ、ヒトミちゃん! 美佳ちゃん!」

 久遠がその名を呼ぶとモニターが左右に揺れ、左に流れるように景色が変わった。

 半目を眠たげに拡げた縫いぐるみを自在に(あやつ)る女子高生オペレータ――須藤(すどう)美佳(みか)が、モニタに向かって指を伸ばす姿が大写しになった。

「ヒトミ……自衛隊には救助要請済み……ユカリスキーも、ヒルネスキーもそっちに降りていってる……」

 美佳は(いそが)しく手を動かしながらも、ヒトミの気持ちを察してかちらちらと視線を送ってくる。

「そう……」

 ヒトミが拳を構え直した。

 派手に吹き飛ばされた宇宙怪獣に両の拳を構えて向ける。

 宇宙怪獣が身をひねり翼を細かく(はば)ばたかせて、その巨体のコントロールを取り戻しそうとしていた。最後に大きく翼を上下させると宇宙怪獣は夜空に向かって上昇していく。

「こっちはヌイグルミオン達に任せて……ヒトミは宇宙怪獣に集中して……」

「任せたわ……」

「ヒトミちゃん! 相手は空を自在に飛ぶわ! こっちも空に上がるわよ!」

「はい!」

「よし! 〝プロジェクト・キャラハイ〟! 始動!」

 久遠の号令とともに擬装(ぎそう)出撃用ビルの四隅の一角がから閃光が放たれた。

 爆薬を破裂させその勢いで飛び出させたらしい。白煙とともに上空にカプセル状の鉄塊(てっかい)が宙に舞う。

 カプセルがこちらも爆発ともに開いた。同時に気球らしき丸い布状のものが一気に(ふく)れ上がる。

「ヒトミちゃん! ベルトをつかんで! 肩で固定するから!」

 気球には久遠の言葉通り丈夫なベルトが吊り下げられていた。そしてよく見ると数体のヌイグルミオンがその下の金具にぶら下がっている。

「はい!」

 キグルミオンの手ががっしりとベルトを掴む。ヒトミはそのままそれを(おのれ)の肩に持っていった。左右二本ずつ。都合四本のベルトが左右の肩の前後に別れてぶら下がる。

 肩口で揺れるベルトにぶら下がりながら、ヌイグルミオン達が金具を己の体全身を使って前後に揺らした。ブランコ遊びかサーカスの真似事でもしているかのように、楽しげに()(かろ)やかに金具同士を(ゆら)らして前後に別れたベルトをキグルミオンの脇の下で交差させた。

 金属質な衝突音とともとに二対の金具が吸い付くように合体する。

「ベルト固定よし……」

 美佳のつぶやき声の再生とともに、ヌイグルミオン達が固定させたベルトから飛び降りた。

 それと同時にキグルミオンの足の裏がビル屋上からふわりと浮かび上がる。

 浮かび上がっていくキグルミオンの体。それにつれて街の様子が角度を変えてヒトミの目に飛び込んでくる。

「隊長……」

 ヒトミの目はその姿を求めて、パラシュートともに消えていったビル陰に坂東(ばんどう)の姿を探す。だが見えたのは煙を上げるビル群と、その方角に降りていこうとする二体のパラシュートを背負ったヌイグルミオンの姿だけだった。

「……」

 ヒトミは己の未練と不安を吹き払おうとしたかのように、上空を窺うように旋回する宇宙怪獣を力強く(にら)みつけた。

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