二十七、無念無想! キグルミオン! 3
「ええ……こっちでも、動いていますよ――」
耳元で食ってかかられた特務隊の刑部は、辺りを見回しながら耳元にあてた情報端末に答えた。
がんがんとそこからは坂東の声が漏れ聞こえてくる。
刑部がいたのは車の中だ。
軍用ではなく普通の乗用車の後部座席に、刑部は坂東に負けない体躯の体を折り曲げるように入れている。
坂東の声に耳を傾けながら刑部は、その巨躯を折り曲げ窓から周囲を伺う。
運転は別の者に任せていた刑部は、何所かに急行する途中のようだ。
「今から、政府に説明をしにいくところです。ええ、ちょうど霞ヶ関ですよ。
クルマが公官公庁街の中をいく。心なしか出入りする政府関係者が、全ての建物で慌ただしく走り回っているように見える。
「今ところ、情報はなしです。もちろん、適正に対処しているという、向こうの建前のような発表はありますよ。ええ。映像も、写真も、音声も。何も提供されていません。官房長官が激怒ですよ。記者会見で発表することがないって――ええ、分かってます。そんな心配は、知ったことではありません」
刑部が耳に当てているというのに、坂東の声はかなり漏れている。
運転を任せていた者が堪らずちらりバックミラーを見た程だ。
刑部は目が合った運転手に心配ないと苦笑いを作ってみせる。
「まずは外交なんです。もちろん自衛隊のパイプも使います。だが文民統制の原則から、政府と外務省から動かないと、こちらは何もできないんです。それでいながら、あちらさんの最重要機密基地に降りてます。ええ、あのシャトルが降りるとすれば、そこで当たり前ですが。情報公開という点では、最悪のところに降りてますよ。悪評名高いキューバの基地に降りていないだけマシですが……」
刑部が懐から別の情報端末を取り出した。
ニュースサイトを刑部は表示させる。
「中国政府は、外交辞令上は感謝の意を表明していますね。まあ、実際宇宙飛行士に関しては、下手な扱いは向こうさんもしないでしょう。ええ……分かってます。今はこちらの安否です。聞いてますよ。須藤夫妻が政府内で文字通り走り回っているそうです。桐山も経済界から圧力をかけてきました。ええ、国内全てでその安否を心配している――そんな雰囲気が形成されつつあります。あちらさんも下手は打たないはずです。ええ……キューバの基地には、送られていません……あそこは、キューバであってキューバでなく、アメリカであってアメリカでありません……本気ならそこに移送されます。一度アメリカ国内に入り込んでますから、今からそこに送られる可能性はかなり低いはずです……はい……では……」
最後の方は端末からかなり耳を離しながら刑部は坂東に答えていた。
それほど電話の向こうの人物の声は感情的なものになっていた。
「やれやれ……あの人がここまで感情的になるなんて……まあ、当たり前か……」
刑部は通話を切った後に耳からその残響を振り払おうと首を左右に振った。
「実際のところ……ひとまず通常の部屋で、それでいて外から施錠できる部屋に移送……そしてしばらくはそのまま放置……自分の運命がどうなるのか――それを考えさせる時間を与えて、勝手に不安になるのを待つ――そんなところかな……」
刑部は車窓から見えてきた国会議事堂をじっと目にしながら呟いた。




