二十六、徒手空拳! キグルミオン! 6
「……」
坂東は久遠の回答を耳にし、しばし沈黙した。
短い時間だが重苦しい空気がキグルミオンの司令室に立ち込める。
この瞬間だけはこの宇宙で重力が復活したかのようだ。
「今ここで、人一人助けられなければ、仲埜はきっと後悔する」
「命あっての話です!」
しばしの間の後坂東が口を開くと、久遠がすぐに反論した。
「回収は可能のはずだ」
「宇宙での孤独は、精神に悪影響を与えます! 簡単に言わないでください!」
「……」
「……」
皆がもう一度沈黙に呑まれたその時、美佳の目の前のモニタがメッセージの着信を告げた。
「外部からの通信……アメリカ軍です……」
美佳がそれを横目でチラリと見て皆に告げる。
「攻撃中止の提案か?」
坂東がはじかれたように美佳に振り返る。
「それが、隊長……救助への協力申し出です……」
「協力? 救助の方にか?」
「はい……推進剤の切れたヒトミと要救助者を……アメリカ側のシャトルで迎えにいく――との申し出……」
「――ッ!」
坂東が驚きに目を見開きながら、眉間に深いシワを刻んだ。
「坂東隊長!」
久遠はその坂東の顔に、やはりそのつり目の目を見開きながら振り返る。
「隊長……米軍の提案は、宇宙怪獣の撃退後……速やかにドローン・キグルミオンのシャトルをヒトミに差し向け……ヒトミと、要救助者をそのままシャトルで救助する――とのことです……」
「最重要軍事機密に……キグルミオンと、中国の宇宙飛行士を接触させる……だと……」
「ヒトミは軍事に疎い……宇宙飛行士は意識不明のはず……」
「漏洩リスクよりも……恩を売る方が得策と見たか……」
坂東が深く息を呑んだ。
「隊長……どう考えても、向こうに有利な提案……アメリカ軍はこの期に、キグルミオンの情報を手にいれるつもり……どうしますか……」
「……」
坂東はその問いには答えず、その背を屈める美佳の前に無言で手を伸ばした。そのまま硬い表情で、一度切られたマイクのスイッチを入れる。そしてちらりと美佳の情報端末に表示されている米軍提案の救助プランに目を落とした。
「仲埜……」
「はい!」
今まさに新たなプラズマを避けていたヒトミが応える。
「作戦は続行だ。だが、伝えておかないといけないことがある」
「何ですか?」
「作戦を続ける場合、お前の回収は困難なものになる。主に、時間的な問題だ」
「待たされるいうことですか?」
「ああ。場合によっては、数時間宇宙で漂うことになる」
「――ッ! わ、私は大丈夫ですけど……宇宙飛行士さんが……」
映像の向こうでキグルミオンの体が細かく震えた。
「そうだ。だが、選択肢は限られている。そこで米軍からの提案だ。残念だがこれに乗るしかない」
「……」
「宇宙怪獣撃退後……お前たち二人を米軍のシャトルが救助に向かう……」
「えっ? いい話じゃないですか?」
「……」
「隊長?」
「そうだ。願ってもない申し出だ。だが、シャトルはお前たちを救助後、SSS8には戻らない……」
坂東は美佳の目の前の情報端末に目を落としながら絞り出すように応える。
「えっ?」
「シャトルは、その燃料の都合上……お前たちを連れて、そのまま地上に降下する……」
坂東は美佳の情報端末に目を落としながら続けた。
坂東の視線の先にあったのは、わざと解像度が落とされた衛星写真――
「降下予定地点は……米軍の砂漠の軍事基地だ……」
そこはアメリカ大陸の砂漠にある軍事基地だった。
改訂 2025.11.29




