二十六、徒手空拳! キグルミオン! 1
天空和音! キグルミオン!
二十六、徒手空拳! キグルミオン!
赤い目がギラリと光る。
上からきたそれは、その爬虫類然とした変温動物の冷たい皮膚の上で燃えるように光る。
「邪魔しないで!」
相対したのは、上へと戻ろうとする円らな瞳。それは宇宙に浮かぶ巨大な着ぐるみの瞳だった。
ふわふわでもこもこの着ぐるみらしい柔らかな肌の上に、プラスチックめいた瞳が浮かぶ。その円らな瞳が、こちらも内から燃えるように輝いた。
それは自ら光ったわけではなく、多くの光をその表面に反射させて光を放ったようだ。
「私は宇宙に戻るんだ!」
下から上へと、宇宙へと戻ろうとする着ぐるみの瞳に次々と別の星が写り込んでは消えていく。
宇宙と面と向かうその瞳。宇宙に応えてもらったかのように、争うように新しい星が入れ替わり立ち代りその瞳で光を放った。
背中のバックパックが推進剤を最大限に噴出する。正面から襲い来る宇宙怪獣に、そのまま真っ直ぐ向かっていく勢いだ。
着ぐるみの手がその掌の中で捉えたものをぎゅっと握りしめる。
それは宇宙船で作業をするためのロボットアームの一部だった。
途中の関節部で強引に折られているそれは、その先に人の形をしたものをつけていた。
宇宙服姿のその人影は意識を失っているのか、勢いに揺れるアームの動きのままに体を揺すった。
「どいてっ!」
最後に一際光を放って着ぐるみの瞳が輝いた。
そしてその着ぐるみの中の人の叫び声とともに、宇宙怪獣が牙を剥いて向かってくる。
要救助者を抱えるキグルミオンの中の人――仲埜瞳は、その居並ぶ巨悪な牙にもひるまず真っ直ぐ宇宙怪獣に向かっていった。
ヒトミをここまで運んできた宇宙怪獣。その憎悪に剥かれた牙が今まさにヒトミをとらえようとする。
「――ッ!」
両手がふさがっているヒトミは、頭からその翼竜の嘴に並ぶ牙にぶつかっていった。
宇宙怪獣にはその行動は予想外だったのかもしれない。
細長い嘴は、柔らかではあるが巨大な頭部を正面から捉えきれなかった。
一度は捉えたかに見えたアギト。だが、激突の衝撃と、割り広げられてしまったアゴにたまらず首を振る。
一瞬の衝突の後に、ヒトミは宇宙怪獣を背後に残して上昇を続ける。
「ヒトミちゃん……今、計算したわ……ぎりぎりよ……ぎりぎり重力にとらわれずに、キグルミオンを元の軌道に戻せるわ……」
そのヒトミの耳元に若い女性の絞り出すような声が再生された。
宇宙怪獣対策機構の実戦物理学者――桐山久遠が、慎重に言葉を選ぶように通信を送ってくる。
「博士! 宇宙飛行士さんは! さっきから動いてません!」
「宇宙飛行士のバイタルは……一応信号を受信しているわ……呼吸、脈拍、ともにあり……ただ体温が心配な数値に……」
「大丈夫ですよね……宇宙飛行士さん?」
ヒトミが手にしたロボットアームを抱え込む。
「ええ……宇宙怪獣が、そのまま見逃してくれたらね……」
「ですね……」
ヒトミが自身の手元と背後を交互に見た。
手の中の飛行士は全く自らは動かない。
最大限の出力で重力に逆らって上昇を続けるヒトミ。
背後では一度はやり過ごした宇宙怪獣が、その身を背後ですでに翻していた。
それはまるで重力など感じさせないほどの躍動感で身を転じると、再びヒトミを背後から襲わんと翼を羽ばたかせた。