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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
三、威風堂々! キグルミオン!
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三、威風堂々! キグルミオン! 14

「博士! 距離が……」

 ドアがあらためて閉められた旅客機の中。美佳が情報端末を手に息を()む。

 端末の中のキグルミオンとヌイグルミオンが、お互い体を押し合うように足の裏を蹴りあっていた。キグルミオンと坂東、二体のヌイグルミオンが宇宙怪獣の目の前で左右に分かれていく。

 だがあまり距離が(かせ)げたようにも見えない。(いま)だ宇宙怪獣の口中の(まと)にとらえられているヒトミ達の姿に、美佳が思わず端末の映像に見入ってしまう。

「大丈夫! 翼竜(よくりゅう)自身が作り出す気流が、二人を押し退()けてくれるわ!」

 久遠が美佳の後ろからこちらもやはり情報端末に見入っていた。久遠は美佳の肩に手を置いていた。その手にぐっと力が入る。

 久遠の言葉通り宇宙怪獣の襲撃自身が作り出す気流にも乗って、ヒトミ達は翼竜の(くちばし)の脇をすり抜けるように落ちていく。

「それより、この後の後方乱気流に()み込まれる方が危険よ!」

 美佳の肩に置いた久遠の手に更に力が入る。

 宇宙怪獣の()虫類を思わせる体に時にぶつかりながら、(ころ)げるようにキグルミオンと坂東の身が流れていく。

「後方乱気流……」

「そうよ。航空機なら翼が作り出す気圧差が、この航空機が前に進んでも後方に残るの。これが乱気流を作り出すわ……おそらく、宇宙怪獣でも……」

「地面までの距離も、心配……」

「そうね。美佳ちゃん……でも、二人を信じましょう……」

 久遠がそうつぶやいた時、ヒトミと坂東が宇宙怪獣をすり抜けた。

「ウェイク・タービュランス――後方乱気流! やっぱり発生してるわね……」

 宇宙怪獣の攻撃を(から)くもかわしたヒトミと坂東。そして反対側のヌイグルミオン二体。宇宙怪獣の巨体と比べれば小さなその体が、まるで木の葉がつむじ風に巻かれるよう回転しながら落ちていく。

「美佳ちゃん! ひとまずは良しよ! 私達は二人を信じて、次の準備を!」

「了解……」

 久遠にの指示に美佳が情報端末のモニタに指を走らせた。

 いまだ乱気流に巻かれ落ちていくヒトミと坂東。その姿が脇に退()くように小さく表示され、()わって擬装(ぎそう)出撃用ビルの地下格納庫が大写しになった。



「うおお……」

 回転し気流に翻弄(ほんろう)される身を何とか制御しようとしてか、坂東が(おのれ)の手足を(ひろ)げた。

 坂東の頭部を守るように(おお)っていたウサギのヌイグルミオン――リンゴスキーが、頭を上げて周囲の状況を確認するやもぞもぞと動き出した。

 リンゴスキーは坂東の体を(つた)うように降り、パラシュート展開に邪魔にならない脇の下にしがみつく。

「ぐぬぬ……」

 坂東の姿勢に(なら)ってか、ヒトミもキグルミオンの着ぐるみ然とした手足を伸ばした。

「仲埜! ひとまずこの気流を抜けて、パラシュートを開く!」

「はい!」

「パラシュートを開いても、即、地面だ! 覚悟しろよ!」

「はい!」

 二人して手足を伸ばしたかいがあったのか、ヒトミと坂東は無軌道に巻かれていた身を地面に対して水平に立て直す。

 地面と対面する形になったキグルミオンの瞳に、その地表の様子が映り込んだ。擬装(ぎそう)出撃用ビルの屋上が左右に割れていく。そんな細部が映り込んで判別できる程、ヒトミ達はパラシュートを開かずに落ちてきてしまっていた。

「いくぞ!」

 坂東の合図とともにその背中のパラシュートが展開された。坂東の肩がぐんと後ろに引かれた。二人の身が急激な減速に襲われる。

 パラシュートが風を受けてはらみ、今度は大地近くの気流に巻かれて斜めに軌道(きどう)がずれていく。

 その向こうではコアラとライオンのヌイグルミが、背中に背負ったランドセルからこちらもパラシュートを展開していた。

 その上空では宇宙怪獣が雄叫びとともにその身を反転させていた。

 空対獣ミサイルを発射した自衛隊の航空機二機は、坂東達を()ける為に大きく左右に分かれて上昇していた。あらためて距離をとった二機は、機体を反転させて宇宙怪獣に機首を向けているところだった。

「ビルが! 隊長!」

 風を受けて軌道が変わってしまったヒトミと坂東。見る見るうちにその身が擬装出撃用ビルから遠ざかっていく。

「気流につかまってしまった! 屋上からビル内への着地は無理か?」

 坂東が状況を把握しようと上下左右に首をめぐらせ、めまぐるしく視線を送る。

「仕方がない! 近くに降りるぞ! 宇宙怪獣は自衛隊機にもう少し頑張ってもらって――」

 坂東がそこまで口にした時、その上空で閃光が(またた)いた。

「――ッ!」

 遅れてきた爆音の方向に、坂東とヒトミが同時に振り向く。

 見れば煙と炎を上げて自衛隊機が一機、爆発しているところだった。

「やられたか――くそっ!」

 宇宙怪獣が勝ち誇るように翼を拡げており、その後ろ足が何かをつかむように曲げられていた。

 瀑炎はそこを中心に広がっており、そこから戦闘機の破片が直前までの慣性にのっとって四散していた。

 辛うじて脱出に間に合ったのだろう。コックピットからパイロットが投げ出されるように射出されているのが見えた。

 僚友(リョウユウ)機がやられたのを見て、残りの一機が機首をひるがえして距離をとる為に宇宙怪獣から離れていく。

 宇宙怪獣が拡げていた翼を折り畳んだ。体を(かたむ)け首を地面に向けるや、ヒトミと坂東目がけて重力を味方に(すべ)り降りるように向かってくる。

「マズい!」

 (せま)りくると大地と宇宙怪獣。だが先にヒトミ達の身に襲いくるのは宇宙怪獣のようだ。

「仲埜! 奴は俺が引き付ける!」

 坂東はそう叫ぶや(いな)や、(おのれ)とヒトミを(つな)ぐベルトのバックルに手をかけた。

 心得たようにウサギのヌイグルミオンが坂東の体から、それと同時にキグルミオンの体に乗り移る。

「えっ?」

 ヒトミが聞き返す間もなく、


「信じてるぞ! 仲埜!」


 キグルミオンの体はベルトから()き放たれ、地面まで後少しのところで空中に投げ出された。

改訂 2025.08.01

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