二十五、国士無双! キグルミオン! 19
「隊長まで!」
ヒトミが声を枯らして抗議の声を上げる。
もどかしげに見たのはSSS8の一角。螺旋を描いて一周する粒子加速器の自らが出て来た場所だ。
ヒトミが悔しげに目の端を振るわながらそこを見上げた。
「了解! バンドー! エキゾチック・ハドロンの照射! キグルミオンにも向けるわ! 皆! アメリカとバンドー達に、照射よ! 急いで!」
ヒトミと坂東の間に流れ始めた空気に割って入る為か、サラが足早に指示を告げる。
その声がヒトミのキグルミオンのアクトスーツの中で響いた。
ヒトミはその声に更に唇を噛み締める。
「サラ船長! 待って――」
「ああ頼む――」
ヒトミが何か反論する前に、坂東が応えた。
そこには確固たる意思があり、ヒトミの声を圧した声量が通信に乗せられていた。
「だが……こちらへは少量で構わない。あくまで援護射撃だからな……そうだな――相手を挑発する程度でいいな……やられた向こうが怒って、こっちに猛スピードで突進してくるような、バカにしたようなものがいいな」
「はい?」
ヒトミは坂東の言わんとしていることが理解できなかったようだ。
だがそこに何らかの意図を見つけて、その答えを求めて間の抜けた声を上げる。
「了解! 博士! 位置計算! こっちに!」
美佳が珍しく声を荒げて指示を乞うた。
美佳は坂東の意図をすぐに理解したようだ。
美佳の滅多に聞けないはじけたような声がヒトミの着ぐるみの中で明るく響く。
「えっ? 何、美佳?」
「ヒトミは、意識を集中する……」
「オッケー、美佳ちゃん! ヒトミちゃん! 私を信じて!」
今度は久遠が明るく、そして力強く返してくる。
「えっ? えっ?」
ヒトミはまだ状況が理解できない。SSS8のキグルミオンの格納庫と、宇宙怪獣とドローン・キグルミオンがもみ合う辺りを交互にあてもなく見てしまう。
そのヒトミのキグルミオンのアクトスーツがうっすらと輝き出した。
それ同時に遠目に見えるドローンの体も光り始める。
だが急速に輝きを増すドローンに対して、ヒトミのそれはゆっくりとした光り方だった。
「サラ船長! いつもより、光量がたりてないような? スージー優先ですか? それなら、私は飛行士を助けに!」
「これでいいのよ、ヒトミちゃん」
答えたのは久遠だった。久遠はどこか楽しげな口調で告げてくる。
「はい?」
「ヒトミ……位置を微調整する……任せて……」
続いて呼びかけてきた美佳の声に合わせたように、ヒトミのバックパックが火を噴いた。
ヒトミの体は美佳の指令のナスがままに宇宙でわずかばかりにその場所を変えた。
「仲埜!」
そして唐突に坂東が問いかけてきた。
「はい!」
「今度こそ助けたいか?」
「もちろんです!」
「そうか……」
坂東が一度言葉を呑み込む。
それと同時にヒトミの体がいつもよりかすかな光で輝くのをやめた。
「仲埜! クォーク・グルーオン・プラズマ照射! 目標! 敵宇宙怪獣――その鼻っ面だ!」
「はい?」
「お前の敵は、こっちだと教えてやれ! それこそ、顔を真っ赤にして、こっちにぶつかってくるような、舐めた一撃でな!」
「えっえっえっ?」
「どんとぶつかって! 一緒に〝どこか〟に、運んでもらえ!」
「――ッ! はい!」
ヒトミは坂東のその言葉に目を見開くと、
「クォーク・グルーオン・プラズマ!」
今まで一番小さなプラズマを宇宙怪獣の鼻っ面に向かって解き放った。