二十五、国士無双! キグルミオン! 18
「そんな!」
ヒトミは着ぐるみの顔でSSS8を見上げた。
宇宙怪獣との戦闘で体の向きが常に宇宙で入れ替わるキグルミオン。その身で今は、ヒトミはSSS8を困惑に見上げる。
SSS8の近くではドローン・キグルミオンが宇宙怪獣と戦っていた。
ヒトミに攻撃を払われた宇宙怪獣は、避けたその勢いでドローン・キグルミオンにつかまったようだ。
SSS8の表面すれすれでもみ合うように宇宙怪獣とドローンが取っ組み合っている。
「今なら、宇宙怪獣はスージーに任せられます! 私は救助に!」
それを好機と見たヒトミが通信に呼びかける。
「ダメよ、ヒトミちゃん。二次災害が予想される現場に、おいそれと人を送り込めないわ」
応えたのは久遠だった。
「だって、たった今も、落ちてるんでしょ? 大気圏に! 今すぐ助けに行かないと!」
「それは……」
「久遠さん!」
「ミズ・ヒトミ! 私も、ミズ・久遠もすぐに計算したわ! キグルミオンのバックパックで闇雲に降りていい高度じゃないの!」
サラの声がヒトミの耳元で再生される。
「でも!」
「『でも』じゃないわ、ヒトミちゃん……今、そのまま助けに行けば、二人とも大気圏に落ちるだけなの……今ある燃料は、帰ってくる分しかないわ! 助けに行っても、帰ってこれないの……」
「それでも! 私の時は、助けにきたじゃないですか! 十年前は!」
ヒトミがもどかしげに首を細かく左右に震わせながら叫ぶ。
「――ッ! ヒトミちゃん……それは……それは、ちゃんと何とかなるという計算があったからよ……」
「美佳!」
「ヒトミ……私もどうにもできない……パックパックは、制御しない……」
「だって美佳! 今、まさに助けに行かないと! キグルミオンは……キグルミオンは! ヒーローなんでしょ!」
「ヒトミ……」
「私……着ぐるみ着て、巨大な敵と戦ってたら、それだけでヒーローだと思ってた! だって、そんな人にこの命を助けられたもの! それが当たり前だと思ってた!」
「ヒトミ……」
「悪い奴がいて! それに当たり前のようにヒーローが用意されてるって思ってた! でも、そうじゃないんでしょ? 誰かが勇気を出して、己の持てる力全てを出し尽くして! 初めて人一人助けられるんでしょ! その人が結果的にヒーローって呼ばれるんでしょ!」
「……」
ヒトミの声を枯らしての訴えに、荒い男の息遣いだけが耳朶に答えた。
「あの時もそうだったんでしょ! 答えてください! 隊長!」
「……」
男の息は応えない。ただもう一度息を呑む音だけを伝えてきた。
「ミズ・ヒトミ……アメリカから協力要請よ……SSS8に、エキゾチック・ハドロンの照射要請……」
「サラ船長! 宇宙怪獣の相手が先ってことですか!」
「ええ……」
「何でです!」
ヒトミが悔しげに奥歯を噛み締めながら叫ぶ。
「分かって、ヒトミちゃん……」
「ヒトミ……無理ない……」
「この……」
久遠も美佳も、ヒトミも互いの絞り出すような声で無念を通信越しに伝える。
「隊長!」
ヒトミは最後に爆発するように叫ぶ。
「仲埜――」
その坂東がようやく口を開いた。
「隊長……」
だが坂東が告げたのは、
「エキゾチック・ハドロンを照射をこちらも要請する。宇宙怪獣に向かって、撃て。ドローン・キグルミオンを援護する」
サラ達に同意するような内容だった。




