二十五、国士無双! キグルミオン! 16
「全員! アームを探して! 楊くん! 君は彼女に、直接呼びかけて!」
緊張の走るSSS8司令室。その張り詰めた空気は映像の中のロボットアームがモニタから消えた瞬間に爆発した。
「バイタル信号はきてるわよね! 他の手の空いてるクルーにも、直接、モニタなんでもいいから探させて! 発見次第、ミズ・ヒトミに連絡よ!」
その瞬間サラが気を呑んで矢継ぎ早に指示を出す。
「何やってんのよ……」
サラがぎりりと奥歯を鳴らす。いらだたしげなその仕草で見つめた先には、宇宙怪獣ともみ合うドローン・キグルミオンの姿だ。
サラが手をモニタに伸ばしてその上で指を走らせると、映像は少し過去に遡った。
ヒトミが宇宙怪獣の突撃を耳から側頭部で受ける。そしてその攻撃でドローンから解放されたヒトミは、勢い良く縦に回転を始めてしまった。
ドローンがその隙に宇宙怪獣に掴みかかる。羽を掴んだ右腕の反対側で、左の手の先がロボットアームに触れていた。
意図せずにドローンのスーツに触れたアームは、宇宙飛行士をつけたままくるくると回転しながらはじき飛ばされてしまう。
サラはその光景に血も出そうなほど奥歯を悔しげに噛み締めた。
「美佳! 宇宙飛行士は? 見失ったわ!」
「ヒトミ落ち着いて……こっちでも、ロスト……今、皆で捜している……」
SSS8の司令室に飛び交う通信の中、ヒトミと美佳のやりとりも聞こえる。
「呉飛行士応答してくれ! 聞こえてるか? 呉飛行士!」
冷静であろうと努めながらも、端々から焦りの色が見える早口な口調で楊はマイクに呼びかける。それは母国語であることも相まって、真摯で悲痛な呼びかけになっていた。
呉飛行士と呼びかける楊の額からは冷や汗が浮かんでは飛んでいく。
地上なら緊張にこわばる頬を伝ってアゴの先から落ちたところだろう。汗は似たような他の者の顔からも浮き出て空調に吸い込まれる間しばし部屋の中を漂った。
お互いの汗が互いの顔に漂っていく。
だがそんなことを気にしているクルーはこの司令室には一人もいなかった。
サラの目の前のモニタに軌道を表す弧を描く曲線が表示される。
「予想軌道でました!」
別のクルーが振り返ってサラに報告する。
その報告を耳にするよりも先に、サラはその曲線の向こうに目を向けていた。
だが曲線は目を向ける端から伸びていく。
「まずいわ……どんどん離れていく……」
真空の宇宙で自らの推進力を失った宇宙飛行士は、摩擦による減速もなくSSS8から離れていく。
「軌道計算追加です! 早急な救助の必要性を認めます! このままいくと、すぐに地球の引力に引き戻されてしまいます!」
別のクルーの報告を裏付けるように、サラの目の前のモニタではSSS8を離れた軌道がそのまま地球に落下してく様子が描かれていた。
「確かにこの場所に居るの? モニタにより目視の確認は! 楊くん! 呉飛行士の応答は?」
「まだです、サラ船長! 呼びかけてはいるんですが……」
サラの呼びかけに楊が振り返りながら答える。そしてその時間も惜しいとばかりに、すぐにマイクに向き直る。
「サラ船長! 見つかりましたか?」
サラの耳元に翻訳されたヒトミの声が割って入る。
「まだよ。映像から、おおよその予想を立てただけ」
サラが悔しげに唇を噛みながら答える。
「早くしないと!」
「分かってるわ、ミズ・ヒトミ……」
「呉! 応答してくれ!」
焦りと苦悩が錯綜するSSS8の空気の中を、
「ヤー・チャイカ……」
若い女性の声が苦しげに再生された。