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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
二十五、国士無双! キグルミオン!
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二十五、国士無双! キグルミオン! 15

「――ッ!」

 ヒトミは両の足の裏を渾身の力で繰り出した。

 宇宙怪獣の脇腹に。ドローンの首筋に。着ぐるみの足が鋭く蹴り入れられた。

 二つの巨体がその勢いでくの字に曲がる。より生命らしい反応をしたのは宇宙怪獣の方だった。

 脇腹に打ち込まれた痛みに宇宙怪獣が身をよじる。一瞬でも早く痛みから逃れようとするかのように、宇宙怪獣は足の裏の食い込んだ脇腹を強引にねじってその身を反転させる。

 我が身しか顧みないその動きで宇宙怪獣はミッションスペシャリストを捉えたままのロボットアームを手放した。

 そしてヒトミとドローンからもその動きで離れ、宇宙怪獣はこの真空の星空の中で翼を羽ばたかせて距離を取る。

 宇宙怪獣とは対照的にドローン・キグルミオンはまるで事務的な作業のようにヒトミの蹴りに反応していた。

 ヒトミの蹴りでさらに回転する二体の巨大着ぐるみ。

 その回転の中で打ち込まれたままの角度で曲がった首をそのままに、ドローンキグルミオンは右手を首筋に持ってくる。機械の動きに操られるままにアームを握っていた右手を離し、無駄のない正確な動きで首筋にやった。

 左手はロボットアームを握ったままだった。

 その左手には意思を感じない。次のコマンド――命令がこないから、継続している。そのような状況の表れのように、ただただ開くでもなく閉じるでもない指がアームを掴み続ける。

 そして右手はヒトミの足先を機械の正確さで掴んでいた。一定の速度で近づき、一定のリズムで指を折り曲げる。そして相手の感触などに反応せずに、ただただその足を掴んだ。

「この! どっちが味方よ!」

 未だにロボットアームを放さないドローンにヒトミがいらだたしげに叫ぶ。

 ヒトミの視線は回転する中でもロボットアームの先端に吸い込まれており、自身の足が掴まれたのに気づいたのは実際に鷲掴みにされた後だった。

 ヒトミが掴まれた足を左右に振って、相手の手を振りほどこうとする。

 ドローンは自身を邪魔したキグルミオンの足を放さない。反対側のアームも掴んだままだ。

 宇宙怪獣は一度小さくその姿を遠ざけたが、すぐに反転してヒトミ達にその長い嘴を向けて向かってくる。

 一度反転すれば再び近づいてくるのは速かった。宇宙怪獣の姿は見る間に大きくなる。

「この……」

 ヒトミは目まぐるしく変わる回る視界の中でその宇宙怪獣の姿を捉える。

 突進してくる宇宙怪獣も、未だ片手からアームを放さないドローンも。その瞳に宇宙飛行士の姿を捉えてはいないようだ。

 回転するに体とアームは、まるで示し合わせたかのように宇宙飛行士のついた先端を向けて宇宙怪獣と激突しようとする。

「だから!」

 ヒトミは掴まれたままの足をそのままにし、反対側の足をなんとか伸ばしてドローンの左の手首を蹴り込む。

 もとより命令待ちで固まっていたような左手はその一撃でアームをようやく手放した。

 宇宙飛行士の体は大きく跳ねるように揺さぶられながらも、寸前のところで宇宙怪獣の攻撃を避けた。

「が……」

 代わりにその嘴の突進をまともに受けたのはヒトミの頭部だった。

 キグルミオンは耳から側頭部にかけて宇宙怪獣の突進をまともに受けてしまう。

 そしてその攻撃でヒトミはようやくドローンの手から離れるが、勢い良く縦に回転してしまう。

「ぐ……」

 呻くヒトミの視界が今度は縦に勢い良く目まぐるしく変わった。

 そしてその視界の端からロボットアームの姿が消える。

「しまった! 美佳! 回転止めて!」

 ヒトミは強引にその身を押しとどめとするバックバックの推進剤に揺さぶられながら、

「何処! ロボットアームは?」

 必死にその首を巡らせて宇宙の向こうに飛んでいくミッションスペシャリストの姿を捜した。

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