二十五、国士無双! キグルミオン! 14
「やめなさい!」
ヒトミがぶつかり合う二つの巨体の間に割って入った。
ヒトミのキグルミオンの背中ではバックパックがその推進剤を最大限に吹き出している。
凶悪な牙と爪を剥く宇宙怪獣と、パワードスーツめいた機械に身を固めた着ぐるみの間。そこに最大出力でやってきた勢いのままに、キグルミオンのふわふわでモコモコの腕が伸ばされた。
その腕は指の先までまっすぐ伸ばされ、少しでも早くと二つの巨体の間で揺れるロボットアームを掴んでいた。
ヒトミは自身の勢いを二つの巨体にぶつける形で止める。
そしてそれでいながら、ヒトミは揺れるアームを強引にその場で押しとどめた。
すぐに目をやったのはその先端についてる宇宙飛行士の姿だ。
まだ細く揺れるアームの先端で、その振動に合わせてミッションスペシャリストの姿が揺れる。
その様子はまるで目の前のドローンと同じだった。機械が動くに合わせてその身が揺れる。自らの意思がそこにはない。
「く……やめなさいって! 言ってるのよ!」
ヒトミが焦ったように声を荒げる。
しかし二体の巨体にはその声は届かない。
宇宙怪獣は今にもその宇宙飛行士を飲み込もうとするかのように牙を剥いて威嚇し、ドローンはまるでそこに人などいないかのようにアームを乱暴に扱う。
「この!」
「ヒトミ……落ち着いて……そいつら言葉、通じないから……」
ヒトミの耳元に美佳の声が再生される。
「美佳! 宇宙怪獣はともかく! スージーは今すぐやめさせてよ!」
「分かってる……今、サラ船長から正式に抗議がいってる……」
「でも遅くない!」
ヒトミが両手でアームを押さえにかかる。
そのヒトミに宇宙怪獣が牙を剥き、ドローンがその宇宙怪獣を押し返そうとする。
三つ巴のアームのつかみ合いと、力の入れ合い。そして宇宙という状況で三体の体はその場でくるくると回りだした。
上下左右のない宇宙で、それでも上下左右あらゆる方向に宇宙飛行士の体がそれに合わせて回転する。
「サラ船長もすぐに動いてる……今少し待って……」
「この状況、分かってるの! アメリカは?」
「正式には、分かってない――との回答……」
「なっ……」
「こちらかの抗議に……先ずは、宇宙飛行士の件は把握していないとのことだった……しらばっくれて、自分達に戦闘か有利に運ぶように時間を稼ぐつもりだと思う……」
「何言ってるのよ!」
ヒトミがぐるぐると回る視界の中でロボットアームの先端に目をやる。
そこでは未だに振りまわされるままの宇宙飛行士の姿があった。
動きに制限のある宇宙服。幾ばくも反るはずのないその服が、揺れる方向のままに左右に最大限まで傾く。
「SSS8の学者さん達からも、各国を通じて状況を伝えてもらってるから……」
「く……」
キグルミオンのつぶらな瞳が宇宙飛行士の激しく揺れる姿を追う。
ぶれる視界のせいか、焦る心のせいか。その首は目まぐるしく揺れた。
「この……いい加減に――」
ヒトミは奥歯をぎりりと噛むと、
「しろ!」
キグルミオンの両足の裏を宇宙怪獣とドローンに同時に蹴りこんだ。




