三、威風堂々! キグルミオン! 13
閃光が二人と三体の体を隅々まで照らし出す。
ミサイルの向こうに見えていた宇宙怪獣の姿が光の向こうに消えた。
「――ッ!」
ヒトミはその物理的とも感じられる衝撃に声も出せない。
爆発とともに三体のヌイグルミオンがその身をひるがえさせた。急激に体の向きを変え閃光に対して背中を向けた三体は、その身を盾にするかのようにヒトミ達の前で体を拡げる。
空気抵抗を受けたヌイグルミオン達が急減速した。加速を続けるヒトミの坂東にヌイグルミオン達が一気に距離を詰めてくる。
「ユカリスキー!」
ユカリスキーがヒトミのキグルミオンの頭部にまとわりついた。全身で覆い被さるようにその頭部に抱きついた。
リンゴスキーとヒルネスキーが坂東の頭部と上半身にこちらも覆い被さる。
一瞬遅れて爆風が二人と三体を襲った。
二人と三体の体は爆風にあおられ急激にその軌道が変わる。重力に引かれ落ちつつも弾かれたように進路が変わった。
ミサイルの爆発が生み出した白煙。その中に二人と三体は錐揉みしながら吸い込まれいく。
閃光が収まった半円の向こうでは宇宙怪獣が身をよじりながら、己の体勢を整えようとしていた。
やはりダメージらしきものは与えられていない。だがひとまずはそのバランスを崩すことには成功したらしく、宇宙怪獣はままならない身を懸命に立て直そうと身を左右にふるわせていた。
「ぬおおぉぉぉっ!」
坂東の雄叫びが白煙の向こうから響き渡った。
「うおおおおぉぉぉぉっ!」
その坂東の雄叫びに負けず劣らずの気迫で、ヒトミの裂帛の気合いが白煙にとどろく。
わずかに霧散し始めた白煙の中に、重力に引かれ落ちていく着ぐるみと大男のシルエットが透けて見えた。
その白煙にぬっと巨大な影が落とされる。
宇宙怪獣だ。
早くも体勢を整え直した宇宙怪獣が、拡げた羽で爆風の名残を受けながら白煙に迫りくる。
「すり抜けるぞ! 仲埜!」
「はい!」
白煙をしたに突き抜けたヒトミと坂東。その二人に宇宙怪獣が牙を剥いた。
ヒトミの頭部にまとわりついていたユカリスキーがずれ落ちるようにはがれた。その様は力なくまるで気を失っているかのようだ。よく見れば背中が爆風の直撃をくらったのか黒いススに覆われていた。
空気の抵抗を受けてヒトミ達の後ろに流れ始めるユカリスキー。ヒトミが手をとっさに伸ばしその手をつかんだ。ユカリスキーはそれでも動かない。
「ユカリスキーッ!」
ヒトミの頭部に美佳の気迫のこもった叫びが響き渡る。それはとても力強い呼びかけだった。
ユカリスキーの身がびくんと一つ震えた。失神から目が覚めたかのように左右に頭を振り、状況を把握しようとしてかキグルミオンにその顔を向けた。
宇宙怪獣が襲いくる。完全にヒトミ達をとらえる軌道に乗り牙を剥く。
「マズいわ! 美佳ちゃん!」
「ユカリスキー! お願い!」
「隊長! こちらの指示に!」
「分かった! 任せる! 博士!」
ヒトミの頭部で久遠と美佳、そして坂東の指示が飛び交う。
ユカリスキーがヒトミの手をつかみ返し、キグルミオンの体に向かってよじ登り始めた。坂東の頭部を守っていたライオンのヌイグルミオン――ヒルネスキーも体の向きを変えてよじ登り始めた。
「ヒトミちゃん! 足を曲げて! 飛び上がる時みたいに!」
「えっ? こうですか?」
ヒトミが地上で飛び上がる寸前のように両のヒザを曲げる。
「合図したら蹴って! 力の限りよ!」
地面と宇宙怪獣が同時に迫りくる。
「無重力と自由落下は等価! なら重力に影響されない方向に置いては、自由落下中でも宇宙と同じ物理現象が起こる。人呼んで――」
ユカリスキーとヒルネスキーが曲げられたキグルミオンの足の裏に乗るように立った。そしてそのままヒトミと同じように両の足を曲げる。
残ったウサギのヌイグルミオン――リンゴスキーが生身の坂東の頭を守らんと身を丸めて巻き付いた。
宇宙怪獣が二人と三体を呑み込まんとその嘴を大きく開いた。
そして今まさに呑み込まんとしたその時――
「作用・反作用の法則! ヒトミちゃん! 蹴って!」
久遠の合図とともにヒトミとユカリスキー、ヒルネスキーがそれぞれの体を力の限り蹴りあった。
改訂 2025.08.01