二十五、国士無双! キグルミオン! 10
「お久しぶりです」
「刑部か……」
坂東がリニアのドアの前で上着の内ポケットから携帯端末を取り出した。
音声通信を告げる内容を一瞥すると、すぐに耳元にあてた。
地上に残る自衛隊の刑部からの着信だった。
「ええ、情報があります。今、そちらの状況は? 話せますか?」
「宇宙怪獣が、中国区画に取りついたらしい……災難だな……あの国も……今はリニアに命を預けて、キグルミオンの司令室に急行中だ……着くまで3分と少しだ……いいぞ……」
本能がそうさせるのか坂東が情報漏れを気にしたように小声で話しを続ける。
「……」
ヒトミが話し続ける坂東に振り返る。
窓の少ない宇宙のリニア。ドアだけは乗り降りの安全性のためか窓がはめられていた。
ヒトミは坂東を直接は見ずにその窓に映った姿を盗み見るように横目で視線で送る。
「そうですか。では手短に。今回もハッブル7改からの情報は遅れました。最悪なことに取り付いた後です」
「……」
「だがその少し前に慌てたように、アメリカが軍事シャトルを打ち上げています」
「……」
黙って刑部の報告を聞いていた坂東の眉がピクリと痙攣するように動く。
「例の砂漠の基地は昼間の時間帯。しかも見渡す限りの青空だろうという天気図ですよ。見つけてくださいと言わんばかりです」
「今更示威が、必要なシャトルでもない……」
「その通り。単に今上げないと、間に合わないから上げた。それだけでしょう」
「……」
坂東がぐっと端末を握りしめる。
「ちなみにこちらも慌てて通信していますので、アメリカに筒抜けのはずです」
「歯牙にもかけんだろうがな。分かった。我々は我々にできることをするだけだ」
坂東がようやく普通に声量を戻した。
「……」
その声にヒトミがようやく坂東の方に直接振り返る。
「もう着く。切るぞ」
坂東はそう通話の向こうの刑部に告げるとヒトミに振り返った。
「……」
ヒトミがその視線から逃げるように反対側のドアの方に振り返る。
「どうした?」
「いえ、もう着きますし……待機してるだけです……」
「開くのはこっちのドアだぞ」
坂東がくいっと己の背中のドアを親指で指差す。
「――ッ! あれ? そうでしたっけ!」
ヒトミは慌てたように身を翻す。
そして床を蹴ると坂東の脇を身を隠すようにすり抜けた。
その間一度も坂東の方を見ない。いや、顔を見せようとしない。坂東の脇をすり抜けてたどり着いたドアの前。ヒトミはそこに映った己の顔に慌ててうつむく。
「おかしな奴だな」
「えっ。別にいつも通りですよ」
「そうか? まあ、いい。宇宙怪獣との戦いは、アメリカのちょっかいも相手にすることになるぞ。今から気を引き締めておけ」
「了解です」
ヒトミは気を引き締め直す為にか己の顔を両の手のひらで挟み込むように軽く叩いた。
そしてようやく顔を上げると窓に映り込む背後の人物の顔を、
「……」
今度はその瞳でまっすぐじっと見つめた。