二十五、国士無双! キグルミオン! 8
「仲埜か……ああ……」
坂東が背後の声と気配に振り返った。
眼下に夜の地球を見下ろす狭いキューポラの中。坂東の体はそのスペースの上下をほとんど埋めていた。そして広い肩幅も横にその空間を埋めてしまっている。
坂東はヒトミに気づくとその体を斜めに傾けた。
自身の体がキューポラを窮屈にしていることに自覚があるようだ。
ヒトミに窓の外が見えるように場所を空けてやる。
「……」
ヒトミが黙って坂東の隣に並んだ。
坂東は体を少し元に戻すと再び地球の景色に目を落とす。
「……」
「……」
二人はしばらく黙ったまま地球を見下ろした。
「聞いたぞ、仲埜。色々と頑張ってるそうじゃないか」
「トレーニングですか? 前から頑張ってますよ」
「いや、勉強も頑張り始めたらしいじゃないか」
「何が何やら、全くなんですけど。宇宙船が浮いてるのは、何となく分かりました。延々と落っこちてる途中らしいです」
「そうか。自分が居るところが、どんな風になってるのか? 知ってる方がいいな」
「……」
「……」
二人はしばらく一気に話し合うとすぐにまた沈黙した。
話さないといけないことを一気に口から出すと、そのまま次に話す言葉を見失ったらしい。
「……」
「……」
二人はやはり黙って眼下の地球を見下ろす。
「夜ですね……」
ヒトミが夜の面を向ける地球をみたままぼつりとつぶやく。
「ああ、もう明けるがな……」
坂東が視線だけ横に向けて地球の自転の方向を見た。そこからわずかに陽の光が見え始めていた。
「夜の地球って……綺麗ですけど……ちょっと怖いですね……」
ヒトミが夜の面の地球に目を落としながら続ける。
「ああ……人の光の中で、ぽっかりと空いた核の痕を見ると余計にな……」
「見てると吸い込まれそうです……」
「はは……まあ、そうだな……」
「ここは地球から……400キロも――あるんですねよね?」
「……」
ヒトミが意を決したように出した地球までの距離に坂東が答えに詰まる。
「……必ずしも、一定ではないがな……」
坂東がようやく答えた。
「飛び降りるには、ちょっと勇気のいる距離です」
「はは……飛び降りないと、地球に帰れないぞ……いつかは、地球に戻るんだからな……」
坂東が答えとともに視線をはぐらかす。
坂東が見たのは今度も地球の自転方向だった。
それはSSS8が進む方向でもある。
地球が自転するよりも早くその地球を回るSSS8。陽の光は見る間に明るくなっていく。
ヒトミの視線が坂東の視線を追った。
「……」
「……」
そして二人はまた沈黙に陥る。
二人は黙って日本列島を形作る人口の光と、それをかき消すように輝いていく陽の光に目を細めた。
だが二人はその視線の先――太平洋を挟んだ向こう側で、
「……」
「……」
二人の沈黙とは正反対の轟音を立てて軍事シャトルが打ちがっていることには気づけなかった。




