二十五、国士無双! キグルミオン! 7
「……」
宇宙怪獣対策機構の隊長と呼ばれる男――坂東士朗は、キューポラと呼ばれる宇宙の出窓の向こうを無言で眺めていた。
宇宙船につけられたその出窓からは、眼下に夜の面を向ける地球の姿が見えていた。
都市部に灯った光が大陸の形を浮かび上がらせている。
90分で宇宙を一周する宇宙船では、暗い姿をみせる地球も45分で夜が明ける。
宇宙船にとってはその束の間の夜の世界。それでも地球はその魅力的な世界を見る者に見せていた。
だがその灯りには不自然に途切れている箇所があった。
「……」
坂東はその暗い箇所に目を向け顔色を曇らせる。
それは人類が宇宙怪獣に対抗する手段として核を使った痕だ。都市部に苦渋の決断とともに使われたそれは、地球に目に見える形で傷跡を残していた。
そこだけが穿たれた穴のように暗い。
復興の為に灯された街路沿いと思しき灯りだけが頼りなげに連なっている。
その道からそれたところで光っている灯りは頼りなげなものでしかない。
坂東はそのような灯りの中の一つに目を落とす。
南北アメリカ大陸が今まさに太平洋の向こうへと消えようとしていた。
その西端のアラスカに空けられていた空虚な穴に坂東は視線を向ける。そこでも核が使われた証拠だ。
坂東の目は自然とアラスカの先のカムチャッカ半島に、そして日本列島に向けられていていく。
自然の輪郭をみせるカムチャッカ半島の下で、日本列島がその形を光に浮かび上がらせていた。
坂東その内の一つの都市に目をやる。そこは宇宙怪獣に世界で初めて襲撃されながら、その初めての襲撃故に、そしてそれ以外の幸運もあり核の悲劇を逃れた街だった。
当然全くの犠牲がなかった訳ではない。
坂東はキュープラの中に浮かびながら、その身を無重力に任せていた。
ふわりと浮いていた坂東はカチャリと拍車が鳴るような音を立てて左足をキューポラにぶつけてしまう。
その音を合図にしたかのように、
「隊長……ここに、いらしたんですか?」
ヒトミがそのキューポラの入り口に不意に現れた。
諸事情で短めです。