二十四、捲土重来! キグルミオン! 17
「……」
ヒトミは坂東の問いかけに答えない。
口元がかすかに震えるように動く。答えようとする気持ちに体がついてこないようだ。
溢れ出る感情を口元が弱々しい堰を作って止めている。
「隊長……」
その堰はヒトミの意思でようやく破られた。
「何だ?」
坂東がヒトミの口元を見つめながら応える。
「私たちのしていることは無駄なんですか……」
「何故思う?」
「人が死にました……」
ヒトミがぎゅっとリンゴスキーを抱きしめる。
「そうだな。今回の襲撃では、久しぶりに犠牲者が出た。それは事実だ」
「だからって、ヒトミちゃんが気に病む状況ではなかったわ」
「そうよ、ミズ・ヒトミ。落ち込まないでいいわよ」
ヒトミと坂東の会話に久遠とサラが割って入る。
「私は自分を着ぐるみヒーローだと思っていました……」
「仲埜……」
「でも、実際は、人一人救えなかったです」
「あのね、ヒトミちゃん……ヒトミちゃんが一人で背負い込む状況ではなかったでしょ?」
久遠がたまらずヒトミの手を取る。
だがヒトミは特に反応しない。
「ヒトミ……」
みんなヒトミの目を美佳が再び覗き込む。
美佳は同時に促すように腕の中のユカリスキーを軽く上下に揺する。
美佳に揺すられたユカリスキーが一緒にヒトミの顔を見上げた。
「仲埜……辛くなったか……」
「いいえ……ちょっとむなしくなっただけです……」
「そうか……」
坂東がヒトミの感情を飲み込むうとするように深く頷く。
長い沈黙が再び訪れた。
皆が次にヒトミにかける言葉を探して自身と向き合っているようだ。
沈黙は長いだけではなく深かった。
誰もがその深い沈黙から浮かび上がってくる為の、最初の一言を探してさらに深く内面へと潜っていく。
「ヒトミ……」
その沈黙を破り、今一度美佳がヒトミの名を呼んだ。
それはいつもの小さな声だった。
深い皆底から浮き上がってきた小さな気泡なような一言で美佳がヒトミの名を呼ぶ。
「……」
ヒトミが美佳に向かってようやく顔を上げると、
「次の犠牲者が私だとして――ヒトミはずっとそのままなの……」
美佳がその眠たげな半目を真っ赤にしてじっとこちらを見つめていた。