二十四、捲土重来! キグルミオン! 14
「……」
冷め始めた食事を前にヒトミはまだ手をつけることができないでいた。
出された食事に無言で目を落としている。
「……」
その様子を女性陣は困った顔で優しく見守り、男性陣は険しい顔で見つめた。
皆がヒトミの手元に気をとられ、自身の食事も止まりがちだった。
ヌイグルミオンは相変わらず抱かれたまま動かない。
「ふん……」
沈黙を破ったのはイワンだった。
イワンは一つ鼻を聞こえるように鳴らすとグラスにまだなみなみと注がれていたウォッカを飲み干す。
「人死にぐらいで、いつまでも辛気臭い顔をされてはたまらん」
「ちょっと、大佐――」
無遠慮なその物言いにサラが真っ先に反応した。
「もっとデリカシーのある言い方できないの?」
「ここは戦場だ、サラ船長。事実をそのまま言って、何が悪い?」
「戦場だから、人の死に慣れろっての? てか、ここはただ宇宙よ。人類の宇宙船よ。人類がやっと築いた、宇宙への足がかりよ。戦場じゃないわ」
「何を今更。宇宙怪獣という未知の敵に襲われている。地球だろうが、宇宙だろうが、今はどこでも戦場だ。ここは宇宙怪獣と戦う為の、宇宙での橋頭堡だ」
イワンとサラが正面からにらみ合う。
イワンの冷徹な視線にサラが燃えるような瞳で向き合った。
二人は互いの意見を引っ込めるつもりはないようだ。
イワンとサラはしばらく互いににらみ合う。
「『橋頭堡』? ですか?」
久遠が単語の意味が分からなかったのか一人首をかしげる。
「軍事的な前進拠点だな。味方の勢力圏から、ポツンと敵側に突き出た、活動拠点だ」
久遠に坂東が答えた。
「宇宙全体が敵地だと考える訳ですか? イワン大佐は?」
「桐山博士。実際、宇宙怪獣がいようがいまいが、宇宙は人類がそのままでは暮らせない世界だ」
「ええ、そうですわね」
「では、そこにポツンと突き出たここは、橋頭堡で間違いない。敵陣の只中に孤立する、一歩外に出れは敵だらけの陣地だ」
「シビアな考え方ですわね。まあ、宇宙が人類に厳しいというは、否定しませんけど」
「だから、少し外壁に穴が空いただけで人は死ぬ」
「――ッ!」
イワンの言葉にヒトミがピクリと肩を震わせた。
「ふん……」
その様子にイワンがもう一度鼻を鳴らす。
「ヒトミ……」
ユカリスキーをぐっと抱きしめ美佳がヒトミの顔を覗き込む。
だがヒトミはうつむいたままだ。
「ふんっ!」
いつまでも顔を上げないヒトミに業を煮やしたようにイワンが立ち上がる。
それと同時に上げた鼻息は今まで一番大きかった。
「もう一度言っておく。ここは戦場だ。人ぐらい死ぬ。慣れることだな」
イワンはそうとだけ告げるとテーブルを離れた。
去り際にイワンは一瞥をヒトミにくれるが、
「……」
ヒトミはまだ食事に視線を落としたままだった。