二十四、捲土重来! キグルミオン! 11
「……」
食堂車のドアがすっと静かに開いた。
ドアの向こうからぬいぐるみを胸に抱いた二人の少女が無言で入ってくる。
「来たか……」
背後で開いたドアの気配に坂東が振り返る。
「ヒトミちゃん。美佳ちゃん。こっちよ」
久遠も遅れて振り返りドアの向こうに軽く手を振った。
ヒトミが前で美佳が背後について二人はドアの向こうからこちらにやってきた。
ヒトミと美佳が抱いたぬいぐるみの頭が歩く度に上下に揺れる。
こちらも無言だった。それでいていつものような自律的な動きもない。ただただ普通のぬいぐるみのように揺れるに任せて二人の腕の中に二体は収まっていた。
「ふん……腑抜けた顔だ……」
正面から迎える形になったイワンがその冷たい視線を向ける。
「傷ついてるティーンズの女の子に、もう少し優しい言葉がかけられないの?」
サラがそんなイワンを横目で睨みつける。
「ふん……」
イワンはサラに鼻で答えて手元のウォッカを飲み干した。
「ヒトミちゃん、美佳ちゃん。ご飯まだでしょ? さあ、座って座って」
久遠が立ち上がって通路を挟んで隣のテーブルの席を勧める。
満席に近い食堂車だったが、二人の大男が陣取るこのテーブルの隣だけはぽっかりと空いていた。
「……」
「ほら、ヒトミ……座る……」
少し躊躇してテーブルを見たヒトミを、美佳が背中から促す。
ヒトミは半ば美佳に背中を押される感じで席に着いた。
「狭かったのよね」
ヒトミに続いて美佳がテーブルに着くと、サラがワイングラスを手に立ち上がる。
「ホントホント」
久遠もテーブルの上のティーカップを手に取った。
二人は互いに軽くうなづいて微笑むとそのまま隣の席へと移動した。
食事はすでに終わっていたようだ。二人はデザートの皿をテーブルに残してヒトミたちの席に移った。
「そっちが後から同席したはずだが」
坂東が不服そうにつぶやきながら二人の背中を見送る。
「どうぞ。むさい男同士の食事をお楽しみください」
久遠は坂東の声を背中で聞き流しながらテーブルに着いた。
そして席に座りながらも、うつむき加減で座るヒトミの顔を覗き込む。
「何にする? ヒトミちゃん」
「……」
「何か食べないとダメよ」
「あまり、食欲が……」
うさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめ俯いたままのヒトミがようやく応える。
「そうね。じゃあ、ひとまずジュースでもどう?」
久遠がヒトミに優しく問いかける。
ヒトミの顔を優しく覗き込む久遠に代わって、サラがメニューを手にウェィターを呼んだ。
ウェィターがこちらに近寄ってくるのを確かめて、サラがヒトミの前にそのメニューを開いて差し出した。
「……」
ヒトミは久遠に優しく声をかけられ、サラにメニューを差し出されても俯いたままだった。
「……」
そんなヒトミをテーブルの向こうから坂東が無言で見つめ、
「ふん……」
イワンがもう一度鼻を鳴らして視線を逸らした。