二十四、捲土重来! キグルミオン! 9
「情報の遅さか……」
坂東がグラスの中身を一気に飲み干して呟いた。
寝台特急の食堂車。その一角を二人の大男が占領していた。
もとより決して大きい訳ではない食堂車のテーブルはそれでも四人掛けのはずだった。
坂東とイワンが座るテーブルだけは少し大きな二人掛けのテーブルにも見える。
実際人が集まりだした食堂車は、多くのテーブルが四人、三人で埋まっていた。遠心力が作り出した一時の疑似重力の力を借りて、自然と仲間で集まって皆が食事と会話に勤しんでいた。
犠牲者が出てすぐの状況では、その口から出る話題も饒舌という訳にはいかない。皆が胸の内の苦しい心境を吐露するように、何かにせかさせるよう互いに言葉を交わしている。
だがやはり重力下での食事は格別で特別なのだろう。皆が自然な様子で食事とアルコールを口元に運んでいる。
普段の食事は無重力ゆえに飲み込む努力が必要だ。だが疑似重力下では地上と同じく自然とそれを重力が助けてくれる。
皆がそのことに満足を覚え、食事と飲み物を飲み込んでは、逆に思い思いのことを口に出している。
初めは死者を思い重苦しいだけの会話も、徐々に前向きなものに変わっていった。
そしてテーブルは多くの利用者で埋まり始めていたが、坂東とイワンの座るテーブルの周りだけはなかなか埋まららない。
二人が座るテーブルだけがまるで絶海に突き出た火山島のように、高くそして孤立していた。
「宇宙怪獣に、初めに目を光らせるのは何処の役目だ?」
イワンがウォッカを水のように飲み干しながら坂東の目を射るように見つめる。
「聞くまでもないだろう。アメリカだ。アメリカが管轄のハッブル7改だ」
「そうだ。あの宇宙怪獣鏡だ。もともと深宇宙探索用に打ち上げられたアメリカのハッブル7。それをその性能故に、宇宙怪獣の索敵用に改良したのがハッブル7改だ」
「そしてその運用は……」
「今もアメリカ一国が担っている……情報は奴らの好き放題だ……」
イワンは坂東の目を射抜いたまま微動だにせずに続けた。
その目はウォッカを飲み干した後にしては、冷たく凍るような鋭さを内から発していた。
「考え過ぎでは、大佐」
坂東がからのグラスを脇に退ける。
だが目はイワンから離さずにまっすぐ見返し続けた。
「ふん、大尉。貴様はそこまで甘くないだろう」
「……」
「アメリカは宇宙怪獣を、効率的に撃退する兵器を手に入れた。お前らの着ぐるみだ」
「キグルミオンは兵器ではない」
「詭弁は後回しにしてもらおう、大尉。手に入れたもの何でも優位に使うべきだ。情報も、兵器も。それが手元にある以上、自国の利益にかなうように使うのが本来国姿だ」
「情報も武力も、今はアメリカに全てを先にいかれる……その絶対的優位……そのことにロシアがどうのような顔するのか、今の大佐の顔がそれか?」
坂東は何処までも冷たい視線を向けてくるイワンを見る。
「……」
イワンは答えない。肯定も否定もせずにその視線を坂東に向け続ける。
「冷たいのに燃えるような目だな……まるで憎悪があれば、氷すら燃え上がるかのようだな……」
坂東はその冷たい熱風のような視線を何処までも正面から受け止めた。