二十三、縦横無尽! キグルミオン! 16
無言と無音で宇宙怪獣を殴り続けるドローン・キグルミオン。何かの信号を受け取ったのか、ドローンはその手を唐突に止める。
ドローンが背負ったパワード・スーツに操られるままに宇宙怪獣を両足の裏で蹴った。
真空の宇宙にドローンの身がすっと浮いていく。
スペース・スパイラル・スプリング8の外壁に居ては、それ自身が照射する粒子ビームの射角に入れない。
ドローン・キグルミオンがその為に指示を受け、一気に距離をとったようだ。宇宙怪獣を自由にしてしまうが粒子の供給を最優先したのだろう。
宇宙怪獣は殴られ続けた体を確かめる為か、その場で身悶えするように体を震わせながらドローンに首を向ける。
上下左右のない宇宙空間。それでもSSS8の外壁に残してきたその宇宙怪獣を、ドローン・キグルミオンが見下ろすように見つめた。
無骨な機械のスーツに囲われた着ぐるみの身が、人類最大の人工衛星を背にするは虫類然とした宇宙怪獣を見下ろす。
スーツが軽く推進剤を吹き出しその身をその場に固定した。
そんな動きもスーツが先導する。スーツが動き、止まり、それに操られるままに着ぐるみが動き、止まる。
だが機械に囚われた着ぐるみが、自ら光を放ち出す。
ドローン・キグルミオンの身を粒子ビームが襲っていた。そしてその光は何時にも増して強力だった。目を覆いたくなるよう光がドローンの身を覆い出す。
「明かり?」
ヒトミがその閃光に振り返る。
ヒトミの頭上に光り輝くドローンの姿があった。
「明るい! これなら!」
ヒトミがすぐさま外壁に振り返る。
「あれ? 自分の影が……」
だがヒトミが外壁の隙間を覗き込むと、その光はあっさり影に飲み込まれてしまう。
「自分の影が邪魔! でも、これだけ明るいのに!」
ヒトミが焦れたように体をよじる。そのことでできた隙に光が差し込むが、壁の向こうの暗闇のわずかな部分しか照らさなかった。
「結局……見えない……何で……」
「ヒトミちゃん!」
焦るヒトミの耳元に久遠の声が再生された。
「久遠さん! どうしたら!」
「いい、ヒトミちゃん。よく聞いて。宇宙は真空よ。光はまっすぐ届いたものしか目に見えないわ」
久遠の口調は冷静ながらも早口にまくしたてる。
「はい?」
「星を見ても、点にしか見えないでしょ? あれは星が周囲に振りまいている光のうち、まっすぐ地球に届いるものだけが目にとらえられているの。地上で電気をつけるとどこもかしこも明るくなるけど、あれは光が空気に当たっているからなの。カーテンから差し込む光に、チリが光って光の帯を作ることがあるわね。あのイメージ。でも宇宙では空気やチリはないから、光はまっすぐ届くものしか見えないわ」
「ええ! じゃあ、スージーの光じゃ限界ってことですか?」
ヒトミがドローン・キグルミオンに振り返る。ドローンは自ら浮かび上がってきた海竜型の宇宙怪獣を迎え撃っているところだった。
SSS8を背にする宇宙怪獣にプラズマは撃てなかったらしい。
ドローンは光輝く体で拳を繰り出していた。その拳の先からわずかなプラズマが放出される。
ヒトミのプラズマ・パンチを真似しているようだ。
「そのままではね、ヒトミちゃん。でも、月を思い出して。真空をまっすぐ飛んできた太陽の光を、自らは光っていない月はそれでも反射して夜空を照らしてくれるわ。十分に取り返せば、夜道を歩くぐらいは明るくなるはず」
「なるほど……」
ヒトミは一人呟くとSSS8の外壁に手を伸ばす。
そこに突き出ていた破片を一つ掴みとると、
「おりゃ!」
それを強引に引きちぎる。
「こうか!」
ヒトミは破片をカメラ撮影のレフ板のように掲げた。
だが即席のレフ板ではドローンの光をわずかにしか反射しない。
そしてその光はプラズマのパンチを繰り出す度に少しづつ明るさを失っていく。
「……」
ヒトミは少しずつ角度を変えながら破片を動かし、なんとか隙間の向こうを探り続ける。
そしてかすかな影がその隙間の向こうに見えた。
「居た!」
ヒトミのその姿を捉えるや否や飛びかかるように外壁に手を伸ばした。