二十三、縦横無尽! キグルミオン! 13
ヒトミがえぐるような軌道を描いて組み合う宇宙怪獣とドローンに襲い掛かった。
背中のバックパックの噴射に身を任せて、キグルミオンの柔らかな体が鋭利な弧を描く。
ヒトミが向かう先。宇宙怪獣とドローン・キグルミオンは正面切ってもみ合っていた。
宇宙怪獣が正面から組合ながらも長い首を活かして、巧みにドローンの攻撃を避けて食らいつく。
ドローンはそのことを逆手に取り、内側に潜り込むように四肢を相手の腹部に繰り出していた。
そしてSSS8の外壁を背にもみ合うに体は、その攻防繰り返す度に宇宙に浮かぶ粒子加速器に背中をぶつけていた。
背中が激突する一撃で外壁が破れ、細かい破片が宇宙の向こうに散っていく。
「やめなさいって! 言ってるのよ!」
ヒトミはその光景に拳を握りめして背後に引いた。バックパックの加速で得た威力を、そのままその右の拳に乗せるつもりのようだる
ヒトミは握りしめた拳を腰の辺りから振り上げながら宇宙怪獣の長い首に殴り掛かる。
体全体を使ってのアッパーのようになったその攻撃は、宇宙怪獣の小さな後頭部を正確に狙っていた。
ドローンと取っ組み合いになっていた宇宙怪獣はその攻撃に対する反応がわずかに遅れた。
宇宙怪獣は背後から迫る攻撃に首を強引に曲げる。だがキグルミオンの拳がかすめるようにその側頭部を殴打した。
その衝撃で宇宙怪獣の体全体が弾かれたように捻られる。
「美佳! もう一回!」
勢いのついていたヒトミは拳を繰り出したままに一度宇宙怪獣達の脇をすり抜けた。
ヒトミはすり抜けるや否や体を体操選手のように捻る。それと同時に背中のバックパックが沈黙した。ヒトミは勢いの方向はそのままに今度は背中を向けて、慣性のままに宇宙怪獣から遠ざかっていく。
そしてヒトミが身を翻すや否やその背中のバックパックが再び火を噴いた。バックパックの噴射が慣性に逆らいヒトミの体にブレーキをかける。
「ぐ……この……」
ヒトミがその急激な加速方向の変更に歯を食いしばって耐える。
それでもヒトミは視線だけは宇宙怪獣達から離さなかった。
ヒトミの眼下で宇宙怪獣とドローンが戦っている。
ヒトミに食らった一撃が効いているのか、宇宙怪獣が半ばぐったりしたように一方的に攻撃を受けていた。ドローン・キグルミオンの繰り出す四肢の攻撃を、かろうじてそのひれ状の手足で押し返している。
一方的に押される宇宙怪獣はその背中をSSS8の外壁に預けていた。
宇宙怪獣はSSS8の外壁を頼りにドローンの攻撃を耐える。
ドローン・キグルミオンも相手を外壁に押し付けることで狙いをつけやすくしているようだ。
互いにもみ合いながら、ドローンが攻撃を繰り出す度に、宇宙怪獣の背中がSSS8を傷つけていく。
むしろドローンの攻撃により外壁が破壊されていく宇宙船の状況に、
「こら!」
ようやく勢いを殺しきったヒトミがこちらは感情の高ぶりを抑えきれずに吠える。
ヒトミは再度加速を始めると今度は上から宇宙怪獣達に向かっていった。
「ミズ・ヒトミ!」
そのヒトミの耳元にサラの悲鳴めいた声が再生された。
単純な単語だったそれは機械翻訳されずにヒトミの耳に届けられ、それ故にサラの声に込められた鬼気迫るものをそのまま伝えていた。
「何ですか? サラ船長!」
加速をしながらヒトミがサラに応える。
「クルーが一人! 行方不明なの!」
「なっ?」
「今攻撃されている区画に居た可能性が高いわ! そこから、何か見えない?」
「そんな……」
ヒトミはぐんぐんと加速しながら宇宙怪獣達に最接近している。そんな急激に大きくなる視界の中で、ヒトミの視線がSSS8の破れた壁の向こうを見る。
ヒトミの視線は外壁を見ながらも、時折宇宙怪獣にも気をとられるままに奪われる。
右往左往するように視線が行き来するヒトミ。そのヒトミの目は宇宙怪獣か、人命かで揺れるままに左右に動いた。
それは宇宙怪獣にそのまま攻撃するのか、それともクルーの消息を確かめる為に減速するか。その選択に揺れるヒトミの心のままの動きだった。
だが加速を続けながらの人の姿を見つけるのは困難だったようだ。
ヒトミは宇宙怪獣に近づく直前で、
「美佳! 減速お願い! クルーを探すわ!」
その身を急激に反転させた。