二十三、縦横無尽! キグルミオン! 12
「でやっ!」
バックパックを背負った猫の着ぐるみが、パワードスーツ然とした機械に囲まれた着ぐるみに襲い掛かった。
ヒトミが背中のバックパックを最大限に噴かせる。
宇宙怪獣の背中に取り付いていたドローン・キグルミオン。その背中をめがけて一直線にヒトミは迫った。
ヒトミはその背中に取り付くと、強引に宇宙怪獣からドローンを引き剥がそうとした。
だがまるでヒトミなどいないかのように、ドローン・キグルミオン――スージーは宇宙怪獣の背中を殴り続けた。
それはその全身に取り付けたパワードスーツ状の機械に操られるがままの動きだった。
本来のパワードスーツとは主従が完全に逆だった。
着ぐるみは機械が動くに合わせてしか動かない。操り人形のようにただただスーツ側の動きに合わせて左右に拳を繰り出していた。
「この……SSS8が近いでしょ! 離れなさいよ!」
ヒトミが叫びながらドローンの背中を掴み、ドローンはそれでも左右の拳を機械に操られるままに繰り出す。
だが宇宙怪獣にはそれなりに効いていたようだ
海竜型の宇宙怪獣は身悶えするようにその攻撃を避けようとしていた。
だが背中に乗られては、ひれ状の四肢と尻尾では悶える以外に手はないようだ。
三つ巴の中、宇宙怪獣はひたすらにSSS8の外壁の上で暴れ続けた。
「ヒトミ……米軍とやっと繋がった……」
その時不意にヒトミの耳元に美佳の声が再生される。
「ちょうどいいわ! 米軍に伝えて! 危ないから、攻撃を止めさせてって!」
「それが……向こうからも抗議……攻撃の邪魔……離れろとのこと……」
「何、言ってんのよ、美佳!」
「私が言ってる訳じゃない……一応伝えただけ……で、隊長……」
「無視だ! 仲埜! 正義はこちらにある!」
美佳にうながされた坂東の声がヒトミの耳元で再生された。
「もちろんです!」
ヒトミが更に力を込めてパワードスーツの背中を引き剥がしにかかる。
しかしドローンは攻撃の手を止めない。操られるままに機械的に交互に左右の拳を繰り出した。
だがヒトミがドローンに組みついたおかげか、宇宙怪獣はついに全身を反転させることに成功する。
その際の勢いで宇宙怪獣の尻尾がSSS8の外壁を勢い良く叩いた。
ドローンも弾かれヒトミの懐に向けて弾き飛ばされる。
「ほら! 言ったでしょ!」
ヒトミがキグルミオンよりも大きいパワードスーツの背中越しに羽交い締めにしようとした。
だがそれは無理があったようだ。
ヒトミは腕をするりとすりぬけると、ドローンはヒトミを蹴りつけて宇宙怪獣に再び襲いかかる。
「こら! 蹴るな!」
無重力ゆえの作用・反作用でヒトミは背後に飛ばされる。
すぐにバックパックを噴かせて体勢を整えるが、すでに宇宙怪獣とドローンは戦闘を再開していた。
それもまだSSS8の外壁の上だった。
長い首と尻尾を振り回して攻撃する宇宙怪獣。操られているがゆえに俊敏性にやや欠けるドローンは、その攻撃を一々パワードスーツで受けて防いでいた。
その余波で弾けた首や尻尾がSSS8の外壁を打つける。
その度に外壁が凹み、時には避けて中が露出した。
「まずいですよ! 隊長!」
ヒトミが加速をつけながら戦闘の現場に戻ろうとする。
「仲埜! 何としても、引き剥がせ! 全てはそれからだ!」
「了解です! 美佳! 回り込むわ! バックパックお願い!」
「オッケー……」
ヒトミの声に美佳が応えると、キグルミオンの体は斜めに滑るように軌道を変えた。
「いい加減にしなさい!」
ヒトミが喉を枯らしてそう叫びあげるど、キグルミオンの体は弧を描いて宇宙怪獣達に襲い掛かった。