二十二、一気呵成! キグルミオン! 11
President――
そう呼びかけられた男は気さくに報道陣に手を振った。
士官にしてみせた先の敬礼はその形の美しさから真摯さすら感じられた。そして報道陣に向けてその手の振りは、一気に気さくなものになっていた。
大統領――そう呼ばれた男が報道陣に向けるその気さくな態度には、紳士さすらうかがえる。
それはその顔に乗っていた笑顔にも表れていた。
人懐っこいまでの笑みがその顔には浮かんでいる。
この軍事大国の最高指揮官でもあるこの男は、その軍が最高機密にしてきた基地で笑顔を振りまいた。
報道陣はその機を逃すまいとやはり雨霰のような音を立ててとシャッターを切る。
だが男の姿はすぐに警備に駆け寄って兵に埋もれてしまう。それでも止むことなくシャッターは男に向かって切られ続けた。
そして吊された着ぐるみに向かって男は歩き出す。
「オゥッ! これが我が合衆国の切り札かい? 随分とチャーミングじゃないか?」
男は目的のものを見上げながら近づいていった。
男が見上げる先で猫を模した着ぐるみが吊されていている。
天頂に登りかけた太陽が濃厚な影をその着ぐるみに作り出していた。
「バイザーが邪魔だね。外せないのかい?」
男は着ぐるみの下で立ち止まり、周りの兵の一人に気さくに話しかける。
「サー! 私は警備担当です! 私には技術的なことは分かりません! サー!」
話しかけられた兵士は一瞬戸惑った表情を浮かべた。本人の言葉通り警備に駆り出された兵士なのだろう。その質問をぶつけられても答えられる訳がなかった。
だが答えない訳にはいかなかったようだ。
相手はこの国の大統領。そして軍最高指揮官なのだ。
警備の兵は一瞬で戸惑いの表情を振り払うや、声量だけは全身全霊で出して答えた。
「ああ、そうだね。悪かったね。こういうのは、専門家に訊かないとね」
男はやはり気さくな笑顔を兵に向ける。
「で、博士は何処だい? バイザーない方が、キュートだって伝えないと」
「博士は来ていません。砂漠は老体には辛いとのことです」
今度の質問は近くにいた黒服の男が答えた。SPの一人らしい。兵に混じってその穴を埋めるように男の周りを固めている。
「あっちゃー。あの博士、我が合衆国の軍事費から、どんなに研究費をゲットしてるのか知ってるんだろうね? 知ってるだろうけど、数字にしか見えないんだろうね。やれやれ、天才は御し難いね」
男は文句を口にしながらもそれでも人懐っこい笑みは絶やさなかった。
「もう少しサービスして欲しいものだね、博士にも。何せ、これから議会を説得するのは、私なんだから。今までとは桁違いのお金が必要らしいからね」
男はそう呟きながら着ぐるみを背に振り返る。
そこには男の言葉を待つ報道陣がカメラとマイクを突きつけるように集まっていた。
男は報道陣を一瞥するとその笑みを一瞬で拭った。
男の顔から全ての笑みが消えた。全ての私を振り落としたような公人のとして真摯さのみがその顔に残る。
それが男の大統領としての顔のようだ。
「我々合衆国は、ついに宇宙怪獣に対抗する兵器を手に入れた! 私は合衆国大統領としてここに宣言する! 我が合衆国は、この人類の希望の星を量産する! 100機だ! これをもって宇宙怪獣に対抗する! 我々人類は宇宙怪獣になど屈しない!」
男は奉仕の精神を全て発揮したかのような真摯な眼差しと口調でそう宣言した。
諸事情により短めです。