二十二、一気呵成! キグルミオン! 1
天空和音! キグルミオン!
二十二、一気呵成! キグルミオン!
「だから、隊長って。休日も体鍛えて一日終わってそうだよね」
キグルミオンの中の人――仲埜瞳は、寝台特急のベッドに腰掛けていた。
この宇宙空間の中で寝台特急が遠心力で作り出す疑似重力がヒトミの体をベッドに押し付ける。
ヒトミの腕の中ではウサギのぬいぐるみが眠たそうに船を漕いでいた。
「うん、まあ……一ミリの脂肪も……許さないタイプ……」
こちらは船を漕ぎそうになるアゴをなんとか持ち上げて少女が応える。
いつも眠たげな政治的アルバイトオペレータ――須藤美佳が、今は本気で眠たそうにその半目をこする。
並んだベッドにそれぞれ腰掛け、二人はウサギとコアラのぬいぐるみを胸に斜交いに向き合っていた。
「いや、そこはあれよ。適度な脂肪は、肉体を守る為に必要。理想的な体脂肪率の維持こそが、鍛錬の理想――みたいな感じじゃない? うっすらと脂肪を残して、その下は完璧に筋肉なの。あるでしょ? そういう美学」
「よ……よく分かんない……」
ヒトミに答えながら美佳がカクンカクンと首を垂らす。
ヒトミの意見にうなづいている訳ではなく、単にもはや眠気が限界に達したようだ。
美佳が頭を落とすたびに胸元に抱いたコアラのぬいぐるみの頭にアゴが当たる。
コアラのぬいぐるみは体を完全に美佳に預けて四肢を垂らしていた。
美佳のアゴがそのふわふわでもこもこの頭に刺さるがそれでもその場を動かない。
自らも頭を支えることができずにコアラのぬいぐるみは頭を深々と垂れていく。
「むむ……さっきまで元気だったのに! もうおねむ?」
ヒトミがコアラに身を乗り出した。油性ペンで書かれたと思しき傷跡がコアラの頬には書かれている。その頬をヒトミが指でつついた。
おねむなコアラのヌイグルミオン――ユカリスキーが、ヒトミに頬を突かれるがままに揺れる。
上からは美佳のアゴ。横からはヒトミの指に突かれ、ユカリスキーの顔がリズミカルに凹みながら揺れた。
「ユカリスキーはお子様……こんな夜遅く……まで……起きてられるはずが……」
美佳の声はそうヒトミに答えながら途中で止まってしまう。
その半目は完全に閉じられ、アゴは深々とコアラの頭に埋まっていく。
そしてユカリスキーの頭は後ろから押されてさらに深々と垂れていく。
「美佳もおねむ?」
「失礼な……これぐらいの夜更かし……」
美佳が顔を上げて左右に振りながら答えた。だが答えた端から目をつむってやはり船を漕ぎ始める。
「むむ! 夜はまだまだこれからだよ! ねえ、リンゴスキー?」
一人元気なヒトミが腕の中のウサギのぬいぐるみを抱えて体を揺する。
だがウサギは揺さぶられるがままだった。ウサギのリンゴスキーはヒトミに揺さぶられるがままに四肢と耳を振る。
「リンゴスキーは、子供も子供……おねむ……すぅ……すぅ……」
最後は寝息を漏らしながら応える美佳。最後はユカリスキーの頭を枕に完全にその中に顔を埋めてしまう。
「ちょっと、美佳? 宇宙怪獣の話は? これからの地球平和の話は? 夜通しガールズトークで、世界の今後を話し合うんじゃなかったの?」
「と、途中から……隊長の悪口しか言ってない……」
美佳の返事はくぐもった声で帰ってきた。
ユカリスキーの頭に顔を埋めた美佳は、もはやその顔を上げることもできないようだ。
「だって! 隊長の話盛り上がるもの! スージーちゃんの話よりも!」
「スージー……ドローン・キグルミオンの……」
「そうよ、美佳! これじゃないって感じするじゃない! 何が違うか、ちゃんと話そうよ!」
「もう何時間も話した……主に隊長の悪口で……」
「そうよ! せっかく有意義な話が、気がつけば隊長の悪口になってるんだから! 宇宙のピンチ、ちゃんと話してない!」
「もう……無理……おねむ……」
美佳はそうヒトミに応えるとそのまま横に倒れ込んだ。
疑似重力の弱い引力で、美佳の体は優しくベッドに迎え入れられる。
「もう! 結局何にも話してない!」
ヒトミが不満げに体を上下に揺すると、
「うんうん……全部隊長が悪い……お休み……」
美佳が適当な返事を返してユカリスキーの後頭部に顔を埋めた。