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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
二十一、百花繚乱! キグルミオン!
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二十一、百花繚乱! キグルミオン! 4

「宇宙怪獣の活動停止を、レーダーで確認……各機関からも同様の報告ね……」

 額に浮かんだ汗を軽く宙に浮かせてサラ・イザベル・パトリシア・ンボマは慎重に言葉を選ぶように口を開く。

 SSS8の司令室。そこの中央に用意されている船長の椅子。

 この宇宙船全ての責任を負った席にサラは船長として座っていた。

 そこは船長の椅子とはいえ無重力に最適化された腰掛け式の簡単なものだった。

 ベルトで固定できるバー状の椅子に腰を下ろし、足元のこちらも固定用にL字型に突き出たバーで足を引っ掛ける。

「目視でも確認して……そう……尻尾の一つでも、動かないかをね……」 

 母国語のフランス語で発したその言葉は、SSS8の船長室に居た全てのクルーにそれぞれの母国語で届けられる。

 母国語がSSS8の公用語に採用されていない国のクルーの耳元には、そのクルー自身が選択した言語で届けられた。

 指向性のある音声がそれぞれの耳に届けられると、各々クルーは目まぐるしく機器に目を通し指を走らせる。

 耳元に付けられたインカムから全べての公用語で指示や問い合わせが発せられ、それぞれ相手の耳にはまた違う公用語で届けられていた。

「……」

 サラは額に浮かんだ汗を拭うのも忘れてそれぞれの指示に耳を傾けていた。必要最低限の大きさしかない司令室では、それぞれの言語が翻訳機を通さずに直接耳元にも届いていた。

 だがその中でサラは特定の言語にピクリと反応する。

 心なしか浮かれているかのような言葉。もしくはあからさまに感情を押し殺している言葉。幾つかの言語にサラは意識して耳をすます。

 多くの言語が入り混じって耳元に届けられ渦巻いていている中、機械翻訳されたフランス語がサラの耳元で明瞭に再生された。

 それはサラ宛の報告だった。

 サラはその報告に耳を傾けうなづいた。

「そう……宇宙怪獣は完全に沈黙ね……よろしい。警戒態勢は解除! これより通常任務に戻ります! 皆、お疲れ! 今日も地球は守られたわ!」

 サラがフランス語で指示を出すと、やはり各国語に翻訳されてクルー達の耳元に届けられた。

「緊急対応に入ってくれたクルーは休んで頂戴。通常業務のクルーはもちろんそのまま。ええ、少し休憩は多めにとっていいわ。緊張をほぐして頂戴。私もこの後、少し席を外させてもらうわ。その間の報告はメールに入れておいて」

 サラがそう告げるとクルーの何人かが席を立つ。実際は無重力のためクルーはそのまま身を浮かせて席を離れた。

「お疲れ……はーい。寝入り端だったの? お気の毒。えっ? 今シフトを外れても、二十分後には正規のシフトに入ってるって? あはは、それは更に気の毒ね。まあ、シフトに入ってから、他のクルーと相談して。ええ、やったわね。私達が宇宙怪獣を撃退してるのよ!」

 サラは天井や床に手を着いて司令室を出て行くクルーの挨拶に一つ一つ応える。

 肌の色も年齢も性別も違う男女がサラと一言二言言葉を交わしてドアをくぐっていく。

「ふう……さて、少しお願いね……ちょっと、息抜きさせてもらうわ……」

 席を離れたクルーが全員出て行くのを見送ると、サラは司令室内に残ったクルーに手を振る。

 サラのお願いにクルーがそれぞれ応えた。親指を立てたり、何度もうなづいたり、クルーによっては横に首を振ることでサラに同意を表す。

 それぞれの国の文化が織りなすサインにサラ自身はウィンクで応えて席を離れた。

 この時ばかりは背中のナマケモノのヌイグルミも大人しいように見える。

「……」

 司令室のドアをくぐるサラ。サラは司令室を出ると通路に沿って身を翻した。

「はーい、ミズ・久遠。そっちはどう?」

 サラは司令室が遠く背中の向こうになるとインカムに向かって話しかけた。

「はい、サラ。まあ、何とも言えない雰囲気ね」

 機械翻訳されたフランス語がインカムから再生された。

「こっちもよ。アメリカ人クルーは、明らかに機嫌がいいわね。ロシア人クルーは平静を装ってる感じ。まあ、私も明らかに動揺してたでしょうけどね」

「そう。こっちも複雑ね。キグルミオンの有用性は再確認されたし。頼もしい味方が増えたはずなんだけど……」

「そう単純じゃないでしょう? 今、キューポラに向かってるの。ちょっと休憩したくってね。司令室近くのキューポラ。よかったら、一緒にお茶しない? そっちもひとまずは息抜きしたいでしょ」

「お誘いありがとう。でも、ヒトミちゃんのメディカルチェックが最優先だから。すぐには行けないわ」

「ああ、そうね。忘れてたわ。やっぱり動揺してるのかも。いいわ、また今度にしましょう。じゃあ」

 サラはインカムに向かってウィンクすると通信を切った。

「……」

 サラは床や壁を蹴りながら、一人通路を漂って行く。

「身内同士で……ううん地球人同士で、縄張りの張り合いをしてる場合じゃないのは分かってるんだけどね……」

 サラは通路の窓越しに見えた宇宙を横目で見ながら一人呟いた。

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