二十一、百花繚乱! キグルミオン! 2
「……」
ヒトミがモニタを食い入るように見入った。
小さな光の点が一つ、その中の別の点に向かって合流しようとしている。
ヒトミがその小さなの動きを瞳で追った。
「ヒトミ、本当に見えてるの……」
そんなヒトミを美佳がいつもの半目をさらに半目にして見上げる。
「見えるわよ……スージーちゃん。合流する為に、減速してるわ」
「ヒトミ……見えるといっても、点でしかないはず……」
「明らかに星と違う動きをする点が一つ。少し暗いし。それとその点が向かってる点も。そっちの方は、形がちょっと細長い。シャトルなんだろうね。ですよね、隊長?」
「ああ、両方とも。視認性が低いな。シャトルの方は、レーダへのステルス性も低いしな。向こうが本気を出せば、これぐらいは当たり前か」
ヒトミの言葉に坂東が深くうなづく。
こちらもやはり星とは違う点をその目で追っていた。
「ぐぬ、この人達は……ユカリスキー、野生の目で見て……」
美佳はそう唸るとコアラのヌイグルミを持ち上げた。
ユカリスキーが美佳に脇の下を支えられてモニタに近づけられる。
ヒトミと坂東で埋まっていたモニタ前に、ユカリスキーがその柔らかな頭を突っ込んだ。
ヒトミと坂東のお腹の隙間から顔を出してモニタを覗き込むユカリスキー。その顔は二人に挟まれ細長く押しつぶされてしまう。
それでもモニタを見上げたユカリスキーは、その二人が見ているモニタの一角をしばらく見つめた。
野生の目と美佳に言われたボタンの瞳がしばらくじっとモニタに向けられる。
だがユカリスキーは諦めたようにその場で挟まれた顔を左右に振った。
二人に顔を挟まれたユカリスキーはむしろ首から下が左右に振れた。
「ユカリスキーが、お尻ふりふり……まあ、収穫はあったとしよう……」
ユカリスキーがお尻を振る光景に美佳が満足したようにうなづいた。
「今や、人類はもう一つのキグルミオンを得た――そういうことですね……先生……」
モニタに見入る集団の脇で久遠が前を向いたまま訊いた。
「ああ、人類の――と、言いたいところだど……僕らだって、キグルミオンを独占運用している……日本とアメリカだけが、今のところ、宇宙怪獣に唯一対抗し得る手段を手にしている……他の国はそう捉えるだろうけどね……」
こちらも前を向いたまま鴻池は答えた。
「どうなると思います、先生?」
「各国で開発競争が始まるか……はたまた非難合戦が始まるか……」
「キグルミオンを開発、製造できる国力のある国は限られます」
「そうだね、何れにせよ……僕と君の論文は、今頃うなぎ登りにアクセス数が増えているだろうね。今年の論文の被引用数……今から期待してしまうね」
「先生は元からトップクラスです」
「はは……まあ、置いておこう……坂東くん」
「何ですか、おやっさん?」
鴻池に不意に呼びかけられ、坂東が全身で振り返った。
ヒトミとの間に挟まっていたユカリスキーがその反動で後ろに弾け飛ぶ。
ユカリスキーはいかにも突然のことに慌てたという風に手足をバタバタと暴れさせながら宙に浮く。
「ユカリスキー、任務ご苦労……」
飛び出たコアラのヌイグルミの体を美佳が受け止める。
ユカリスキーはそれでもパニックを演出する為か、その場でしばらく手足を暴れさせる。美佳がそんなユカリスキーを胸元まで抱き寄せると、ようやくその手足を垂れさせた。そして細まってしまった顔の感覚を振り払うように、ユカリスキーは美佳の腕の中で耳を振るわせ首を左右に振る。
「僕は光学映像から、ドローン・キグルミオンの特性を見てみるよ。うちのと違って、パワードスーツみたいなのをまとってからね。一応違いを確認する。データをもらうよ」
「ええ、須藤くん。送っておいてくれ」
「はい……」
「まあ、大方中の人だけ用意できなかったんで、苦肉の索で外骨格みたいな状態なんだろうけどね」
「中の人が居ないキグルミオンなんて、キグルミオンじゃないです。愛がないです」
ヒトミが坂東に並んだまま鴻池に振り返る。
「はは、それは言えてるね。じゃあ、僕の研究室に戻るよ――」
鴻池は笑いながらそう応えるとドアに振り返り、
「〝アイ〟がない……それは重要な話だね……」
こちらに真剣な目を向けていた久遠と同じく笑っていない目ですれ違った。