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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
二十、快刀乱麻! キグルミオン!
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二十、快刀乱麻! キグルミオン! 8

「SUSY。目標に順調に接近中。接敵機動――これまでのところ、全て問題なし。良好です」

 人工の証明が軍服の人間達を上から照らしていた。

 隙なく縫われた軍服が鍛え上げられた軍人達の身をぴたりと覆っている。

 身の丈に特注で合わせたような隙のない出で立ちで、軍服姿の軍人達が男女問わずすっと背筋を伸ばして席に向かっていた。

 宇宙ステーションの地上司令所とも、軍事司令所ともとれそうな一室。そこに年齢も風格もそれぞれな男女が、皆同じ方向を向いて作戦用と思しき席に座っている。

 席では各種のモニタがひっきりなしに情報を表示し、その英文の文字列は滝が逆に流れるように現れては消えていく。皆が耳にヘッドセットを架け、耳を情報に済ませながらも自らも何処かへと連絡を告げていた。その手元も全ての指が一時も休まることなくキーを叩いていた。

 地上の軍の作戦司令室らしき一室。そこに静かな緊張感が満ちていた。

 そこは重力下だった。

 証明は上から照らされ、机やイスは勿論、人も皆、床に整然と並んでいる。

 軍人達は皆、重力に沿って垂れる服装の袖や裾を、重力下故に真っ直ぐに着こなしていた。

「よし。敵との接触は?」

 司令室の後方。数人だけ席に着かず立脚している軍人達が居た。

 それぞれの両肩や胸には簡素ながら凝ったデザインの勲章がぶら下がっている。

 将校らしい。 

「後、三分三十七秒です」

 将校の言葉にモニタの前の軍人が振り返る。

「結構。しかし、まったく……」

 将校の一人が答えた軍人に応え、一人呆れるように呟く。

「何かね? 中将?」

 中将と呼びかけたのは、この軍服の群れの中で一人スーツに身を固めた初老の男だった。

「いや、博士。軍人としてね」

「ふん。気に入らないかね? 着ぐるみのような兵器を使うのは?」

 博士と呼ばれたスーツの男は舐めるように中将と呼んだ男を見上げる。

 中将と呼ばれるだけあってその将校は軍人らしい屈強の体躯を誇っていた。

 その脇に立つ博士は、対照的に細身の体を曝していた。

 その身長差から博士は中将を見上げるが、だが決して卑屈な感じを感じさせない。

 何か下から剣でも突き刺すように博士は中将を見上げる。

「ええ、博士。ドローンとはいえ、兵器。あのようなふざけた姿をしているのを見ますとね」

「ふん。仕方あるまい。あれが実績のある形だ。もっと早く、予算を回してくれていれば。連中の二番煎じな機体などにする必要などなかった」

「では、あえて、あの姿ですか?」

 中将がアゴで前方を指し示した。

 指令室の前の壁に大型のモニタが埋め込まれていた。

 そこには小さな姿ながら、しっかりと着ぐるみらしき姿が写っている。

 それはSSS8から捉えたドローン・キグルミオンのスージーの姿だった。

 スージーは背中のパックパックから推進剤を噴き出して宇宙怪獣へとまさに向かっていくところだった。

「当たり前だ。物理学者は、本来保守的なのだよ。何処までの既存の理論でひとまずは世界を考える。おいそれと理論や数式を変えては、世界に美しさは現れないからだ。ニュートン力学の果てに、ブラックホールを予言したアインシュタインのようにだ」

「はぁ」

「そう。そしてそのアインシュタインが、次の革新を生み出した。量子力学だよ。光は粒としても、波としても振る舞う。古典的ニュートン力学が扱えないミクロのスケールまで来た時、初めてそのような量子的にとらないといけない世界が現れた。いや、元からあった世界を我々が知った。その時初めて、量子力学が必要とされたのだ。限界までは既存の理論で望み、それが通用しないとなれば新しい理論を考える。我々は革新的な保守なのだよ。そう、おいそれと新しい理論など作り出したらしない。だが必要とあれば、新しい理論を考える。そうでなければ、世界の美しさなど現れない」

「そうですか。ですが、直接攻撃とは……」

「それも、気に入らないかね?」

 今度も何かえぐるように博士は中将を見上げる。

「ええ、博士」

「ふん。対獣ミサイルなど。全て名前だけだろうに」

「まあ、認めたくはありませんがね。でも、あれでは。中に人を入れて撲る蹴るをする連中と変わらないのでは?」

「ふん。中の人など不要だ。鴻池は、人間原理を強く信じ過ぎている。それはオカルトの領域だ」

 博士が一際大きく鼻を鳴らして応えた。

「……」

 中将は最後は応えずにモニタに見入る。

「接触まで、後三十秒。宇宙怪獣の軌道に変化なし。作戦許可を」

「よろしい。作戦を許可する。今日この瞬間より、対宇宙怪獣の主導権は、我々アメリカが握り直す」

 中将が司令室の軍人達の背中に向かって声を張り上げる。

 多くの者が背中でその指令を訊いていたが、伸ばされていた背筋が更にピンと伸ばされた。

「ロシアでも、中国でも、日本でも、インドでもない。イギリスにも、ドイツでも、フランスでもない。我々アメリカだ」

 中将がそう高らかにそう宣言する先でモニタがドローンを大写しにした。

 ドローン・キグルミオンは、右の拳を振り上げていた。

 だがそれは背後に背負ったパワードスーツにただ操られるように右手を挙げている。先にパワードスーツが動き、それに吊られてドローンの右手が動いた。

 そのドローンの右の拳が宇宙怪獣に操られるままに繰り出されるのを見て、

「ふふ……」

 博士と呼ばれた初老の男は満足そうに一人目を細めた。

次回の更新は、1月8日以降を予定しています。


参考文献

『重力とは何か アインシュタインから超弦理論へ、宇宙の謎に迫る』大栗博司著(幻冬舎新書)

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