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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
三、威風堂々! キグルミオン!
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三、威風堂々! キグルミオン! 4

「ほえええぇぇぇぇっ!」

 ヒトミを乗せた軍用車両が海に()けられた橋を渡る。

 青々とした海原に、人工的な直線をすっと引いた橋梁(きょうりょう)だ。その橋は二段構造になっていた。下部は鉄道が走り、上部が車両用となっている。

 そして橋に強度をもたらすトラス――三角形型に組まれた鉄骨は、下部の鉄道側に、上部の道路側を支えるようにつけられている。その為車両用の橋の上からは、広々とした空間が何処までも広がっていた。

 左右に広がる青々とした空間。ヒトミはシートベルトをしたまま、乗り出さんばかりにその身を後部座席のドアに寄りかからせる。

「ふええええぇぇぇぇっ!」

 海風をまともに顔に受け、ヒトミはまたもやおかしな歓声を上げた。

「ヒトミ、興奮し過ぎ……」

「美佳だって似たようなもんじゃない!」

「ぐふふ」

 そう、美佳もヒトミの反対側の後部座席でやはり身を乗り出さんばかりにしいた。海風をまともにその顔に受けて、髪がなびくに身を任せている。

 その様子を助手席のコアラのユカリスキーが、小型のカメラで撮影していた。

「ふふん、ヒトミちゃん。今からそんなに興奮してると、身がもたないわよ」

 久遠がハンドルを握りながら、笑顔でバックミラーに映ったヒトミ達を見る。

「そうですか? でも、宇宙の入り口に行くんですよね? 今向かってるのって、普通の空港ですよね?」

「そうよ」

「普通の空港から、宇宙に行けるんですか? なんかロケットの発射場とか想像してたんですけど」

 ヒトミが運転席の方に身を乗り出し直した。そのまま前方を確認すると橋に連なる海上空港がその姿を(あらわ)してくる。

「粒子加速器を宇宙に浮かべる今の時代はね、高度140キロメートル以上の宇宙空間にも民間宇宙旅行会社が気軽に連れてってくれるわ。地球の引力を振り切るのは無理だけど。それでも高度140キロは立派な宇宙空間。そこまで行けば数分間無重力を体験できるし、漆黒(しっこく)の闇に浮かぶ青い地球を見ることもできるわ」

「ほええぇぇぇ……」

「隊長みたいにスペース・スパイラル・スプリング8に滞在しようとすれば、もっと高々度まで到達できる手段が必要だけど。手軽に宇宙を体験するには、民間宇宙旅行会社を利用するのが一番よ」

「それって、高くないんですか?」

 ヒトミが眉間にシワを寄せて心配げに尋ねる。

「あはは。ヒトミちゃんが心配することじゃないわ。ねぇ、美佳ちゃん?」

「ぐふふ……二度に渡って宇宙怪獣を退(しりぞ)けた()が『宇宙怪獣対策機構』……臨時補正予算に、追加の項目を(すべ)り込ませるなんて訳ない……」

「美佳……あなた何者なの……」

 ヒトミがゴクリと息を一つ()み込む。

「ふふん……前々からかけあってただけ……この期に(およ)んで政治的な外交的な配慮から待機……向こうもこれぐらいの追加予算はやむなしと思ってるはず……」

「そうよ! 本当ならもっと追加予算分捕(ぶんど)って、キグルミオンそのものを宇宙に上げる実証実験をするつもりだったんだから!」

 久遠がぐっとアクセルを踏み込んだ。もう既に海上空港はその姿を完全に(あらわ)している。そこまで急ぐ必要がないのにアクセルを踏み込んだのは、久遠の怒りか(あせ)りの(あらわ)れだろう。

「そう言えば隊長って、何でSSS8にいたんですか? キグルミオンを宇宙に上げる為ですか? でも、妨害が入って宇宙に居たみたいなことも言ってましたよね?」

 ヒトミが背後を振り返りながら質問する。ヒトミの乗った軍用車両につかず離れずの距離をとって、坂東が運転するバンが続く。相変(あいかわ)わらずウサギのヌイグルミオン――リンゴスキーの耳が道路地図の上からのぞいており、それは楽しげ()れていた。

「そうね……政府の中には、私達の活躍を(うと)ましく思う人達もいるのよ。宇宙怪獣に〝しか〟使えない兵器よりも、外交上有利に立てるもっと汎用的な兵器――つまり核をこの()に手に入れるべきだってね……」

「ええっ!」

「もし私達のキグルミオンが宇宙怪獣を倒していなかったら、友好国に頼むにしても他国の核攻撃を(あま)んじて受け入れなければならなかった……それも屈辱(くつじょく)だし、政治的にも(あや)うい決断。それに勿論(もちろん)環境への影響とか考えると、本来はキグルミオンが倒すのが一番いいのよ。でも、そういう思惑(おもわく)を持った政治家は、キグルミオンに活躍して欲しくない……むしろ一度他国の核を自国の同意の(もと)で撃ち込ませて、国民にショックを与えて核兵器の自力開発に結びつけたい。だからキグルミオンを活躍させない為に、何だかんだで隊長を隔離した。ウチとしてもSSS8の協力は必要だし、宇宙は重要なところだから断れなかった――まあ、そんなところね……」

「ぐう……そんな、宇宙怪獣には皆が困ってるのに……」

 ヒトミが義憤(ぎふん)からか眉間にシワを寄せる。

「あはは! ま、辛気(しんき)くさい話はひとまずお(しま)い! さあ、もうすぐよ! 私達の宇宙!」

 久遠は殊更(ことさら)明るく笑うと、先程とは打って変わって(かろ)やかにアクセルを踏み込んだ。

改訂 2025.07.30

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