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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十九、獅子奮迅! キグルミオン!
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十九、獅子奮迅! キグルミオン! 7

「はいはい、ヒトミちゃん。それとね――」

 久遠が再び手を叩いて注意を呼び込む。それと同時にモニタを蹴りヒトミ達の方へと向かって来た。

「何ですか、久遠さん?」

 ヒトミがこちらに向かってくる久遠に小首を傾げてみせる。

「無重量の実験を、してもらおうと思うんだけど」

 その無重力状態に身を任せながら久遠がヒトミと美佳の横まで飛んで来た。最後はヒトミに手で受け止めてもらいながら、久遠は手元の情報端末を相手に見えるように差し出す。

「はいはい。いいですよ」

「そういう勉強なら……大歓迎……」

 美佳が久遠の端末を覗き込みながら応えた。

「美佳。どんな実験?」

 ヒトミも端末を覗き込む。だが美佳の頭が邪魔でヒトミからは端末が覗き込めないようだ。

「無重力でお互いを押したらどうなるかとか。無重力でのシャボン玉のでき方とか」

「ええ! 何か一気に、簡単になってない?」

「そう……でも、地球との交信とか……宇宙からの地上の観察とかもある……」

「それでも、今までの数式のものに比べたら、断然簡単だよ!」

「そうね……」

「あら、ヒトミちゃん。今まで通りの数式ばかりの授業がよかった?」

 久遠が意地悪げに目を細めて訊いた。

「いいえ! おしくらまんじゅうでも、シャボン玉遊びでも! 何でもしますよ!」

「よろしい。勿論宇宙服の着方とか、実際的なものもするからね」

「おお……」

 ヒトミが目を輝かせて感歎の声を漏らす。

「宇宙の機材も触らせてもらいましょう。せっかく宇宙に来てるってこともあるけど、やっぱり宇宙にいるんだもの。まさに生きた教材は触っておいて損はないわ。ヒトミちゃんにはキャラスーツがあるとはいえ、宇宙服とか着れないとね。もったいないでしょ?」

「確かに」

「本当は一通り勉強して、宇宙服とか着れるようになってから宇宙にくるんだけど。私達はかなり急に来ちゃったからね。順番が逆だけど、知っておいて損はないから」

「……」

 美佳が二人の会話を背に黙って久遠の端末を見つめる。

 そんな美佳の胸元で、ユカリスキーも端末を覗き込んでいた。

「どうしたの、美佳ちゃん?」

「これ、実験の部分は……何処かで見たことがある……」

「そりゃ、そうよ。無重量実験の定番ね。ISSの昔から、地上に居る人に無重力の不思議さを感じてもらう為の色んな実験をしたわ。地上に放送した分の動画アーカイブとか残ってるから、そこからもって来たの。それを見たんじゃない? まあ、分かりやすいからね。手あかがついてるのは勘弁してね」

「ええ! じゃあ、結果は分かり切ってるんですか?」

 ヒトミが目をぱちくりとしばたたかせた。

「そりゃ、そうよ」

「ええ! せっかく人類の謎の一つを、解明できる手助けができると思ったのに!」

「いや、ヒトミちゃん……いくらなんでも、結果の分かってない実験を、ヒトミちゃんに任せたりしないわ」

「むむ、それもそうです」

「そうよ。身近なものを使って、宇宙の不思議を探求するの。ISSの時代には、中継する技術がようやく宇宙に上げられたから、色々と地上に向かって実験もしてみせたのよ。本当に実験で確かめたい研究所レベルが求める実験とは別にね」

「へぇ……」

 ヒトミがもう一度感歎の声を漏らすと、

「ふむふむ……ユカリスキーさんも、そう思いますか……」

 二人の会話を背に美佳が何やらユカリスキーに耳を傾けていた。

「何、美佳? 何、一人でブツブツ言ってるの?」

「むむ……失礼な、ヒトミ……ちゃんとユカリスキーと話している……おっと、ユカリスキーが実はしゃべれたのは、ここだけの秘密……」

 美佳がわざとらしく口元を手で覆う。

「何、言ってんのよ? 一人で、話してるだけでしょ?」

「ふふん……バレたか……まあ、いい……博士、一つ提案……」

 美佳が体を翻した。足下に来ていた机を蹴り、美佳が教室代わりの部屋から率先して出ていこうとする。

「何、美佳ちゃん?」

 久遠がその後ろに続いた。

「あっ、待ってよ!」

 ヒトミの後に続く。身を翻してから机を蹴ったヒトミは少し出遅れてしまった。

「これからやるのは、意義のある科学実験……」

「そうよ、美佳ちゃん」

 先に動き出した二人はもう部屋からドアの外へと出て行くところだった。

「簡単だけど、私達レベルにはいいお勉強……」

「そうね。そんなところね」

「待ってってば」

 ヒトミが通路に出ていた二人の背中を追う。

「だったら、皆にも見せてあげればいい……」

「ん?」

「ISSの故事に習う……」

「ああ、なるほど……」

「幸いこっちには、一流の着ぐるみアクターが居る……」

「確かに、子供受けしそうね」

「勿論、子供に大人気間違いなしの縫いぐるみ達も……」

 久遠と美佳がやっと追いついたヒトミに振り返る。

「えっ、何? 何の話?」

 ようやく追いついたヒトミは美佳の肩を掴んで減速しようと手を伸ばす。

「ぐふふ……私達も地上に配信する……実験を皆に見てもらう……着ぐるみと縫いぐるみが織りなす宇宙ショー……受けるに決まってる……」

 美佳が胸元のユカリスキーを軽く持ち上げながら不敵な笑みを浮かべると、

「ええ!」

 ヒトミが驚きに手を挙げ美佳の肩を掴み損ねてその横を通り過ぎていった。

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