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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十八、疾風怒濤! キグルミオン!
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十八、疾風怒濤! キグルミオン! 14

「凄いのです……」

 ヒトミが天井を見上げる。

 SSS8内の寝台特急。その食堂車。シャンデリアとはいかないが煌煌と灯りが灯されていた。

「そう?」

 久遠がそんなヒトミを見つめて微笑む。

「そうですよ。ああ、明日も授業あるんですよね? 宇宙の話」

 ヒトミがようやく天井から顔を正面に戻す。

「ええ。たっぷりとあるわよ」

「むむ……どんな話だったかな……」

 ヒトミがアゴに手をやって何かを思い出そうとしてかそこをさすった。

「ふふ。随分と熱心に話を聞くようになったな」

 そんなヒトミの姿を軽く横に見て板東が口を開く。

 板東の手の中にはそろそろ底が見えそうになっているカップが握られていた。

「ええ! だって面白いですよ! 聞いていて飽きないです!」

 ヒトミが両手をテーブルについて身を乗り出す。それで横に座っていた板東に顔がよく見える位置に体を突き出した。済ました顔でカップを握る板東にヒトミが食ってかかるように身を乗り出す。

「そうか?」

「そうですよ」

「ふふ……」

 板東が後いくらも残っていないコーヒーのカップに口をつけた。

「ああ、笑った! 何が、おかしいんですか?」

「いや、別に」

「ぐふふ……前までのヒトミなら、困った顔で勉強したくないって雰囲気爆発だった……」

 美佳がこちらもカップを傾ける。

 美佳の腕の中のユカリスキーが同意するかのように右手を挙げて振ってみせる。

「ああ、美佳もユカリスキーもヒドい! 私が宇宙に興味持ったら、おかしい? ねぇ、リンゴスキー?」

 味方が少ないと見たのか、今度はヒトミは端にちょこんと座るリンゴスキーの顔を覗き込む。

 訊ねられもしばらくそのまま動かなかったリンゴスキーが、大きな耳を傾けて小首を傾げた。

 そんな様子に続いてライオンのヒルネスキーが両腕を胸の前で組み、タテガミを前後に揺らして何度もうなづいた。

「ああ! この子達までヒドい!」

「あはは」

 真っ赤になって抗議するヒトミに久遠が噴き出すように笑った。

「ああ、久遠さんまでヒドいです!」

「あはは……そうね、ヒトミちゃん。でも、やっぱりちょっと変わった感じはするわ」

「そうですか?」

 ヒトミがようやく乗り出していた身を後ろに退く。

 席に座り直したヒトミは皆の反応が不満なのか両足を突き出してぶらぶらと揺らした。

「ふむ……」

 板東が久遠に同意するようにうなづく。その板東の前から空になっていたコーヒーカップが給仕の手で下げられた。

 給仕はそのままワイングラスを置いた。板東の目の前で紅いワインがなみなみとがれていく。

「……」

 何故だが皆がその様子を黙って見守った。

「ヒトミちゃんは、急に勉強が好きになったんじゅなくって、宇宙がちゃんと知りたくなったのよね?」

 板東の前に注がれたワイン。それがそそぎ終わるのを見守って久遠が口を開く。

「むむ……なんだろ? そうですかね?」

 ヒトミが首を左右に傾ける。

「多分、そうよ。別にそれなら、難しい数式を覚える必要もないわ。勉強勉強したような内容を、無理に詰め込む必要なんてないわよ」

「そうですか?」

「そうよ。だから急に勉強好きになったって感じじゃないと思うわ。誰だって不思議だもの。宇宙も。それを成り立たせる小さな世界の話も。興味を持って当たり前よ。数式とにらめっこするのは、私達科学者のお仕事。そっから出てくるお話に興味を持つのは自然のこと」

「ううん……」

「ヒトミちゃんが、宇宙を他人事だと思っていない証拠よ」

「まあ、実際宇宙に来てますし。今は生活の場ですから」

 ヒトミが久しぶりにカップに手をつけた。

 まだ半分以上中身が残っているが少し冷め始めているようだ。ヒトミは湯気の上がらなくなったコーヒーを揺らす。

「そうね。明日から、また宇宙の話をしてあげるわ」

 久遠がもう一度微笑む。

「はーい」

「はいはい……」

 ヒトミが元気よく返事をし、美佳が少しげんなりしながら応える。

「じゃあ、子供は早く寝ることだな」

 板東がワイングラスを傾けた。グラスの中程まで紅いワインが一気に無くなる。

「ああ、一人でお酒飲んで」

「一人だけ大人だからな」

「久遠さんは?」

「まだ二十歳前――それは譲れないわ」

 久遠が自慢の吊り目をきっと更に吊り上げて己の年齢を誇示する。

「そうでした。てか、そうですよね? 隊長は大人ですよね」

なんだ、仲埜? 引っかかる言い方だな?」

「別に。大人な雰囲気で、大人な女性と、大人なワイン飲んでたなんて、知らないよね。ねぇ、リンゴスキー」

 ヒトミがウサギの縫いぐるみの顔を覗き込むと、リンゴスキーは分からないという風に小首を傾げてみせた。

「ありゃ、リンゴスキーはあの時寝てたか?」

「『あの時』? ああ、前の時か、あれはたまたま一緒になっただけだ。向こうから座って来た。それだけだ」

 板東はいい訳をしながらもばつが悪いのか、残りのワインを一気に飲み干す。

 そのワインがグラスから消えていく様を横目で覗き見て、

「どうですかね」

 ヒトミは最後はぷいっと顔ごと反対を向いた。

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