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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十七、不撓不屈! キグルミオン!
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十七、不撓不屈! キグルミオン! 14

「ただいまです」

 キグルミオンの巨体がSSS8の壁の前にゆっくりと近づいて来る。

 その背中のバックパックは今は沈黙しており、宇宙での止まらない慣性に任せてヒトミはSSS8に近づいてくる。

 キグルミオンの肩や頭の上にはヌイグルミオンの小さな宇宙服が取りついていた。

 ヌイグルミオン達はヒトミの肩や頭に腰掛け、寝転び、足を伸ばしぶらぶらと振っている。子供用のような小さな宇宙服で足を楽しげに振るヌイグルミオン。その場から動いてはいけないが、体を動かしたくって仕方がないという風にそれぞれに足をぶらつかせていた。

「お帰り、ヒトミちゃん」

「お帰り……ヒトミ……」

 キグルミオンの中で久遠と美佳の声が再生される。

「はーい。ちゃちゃっと片付けて来ましたよ」

 ヒトミが右手を挙げて手を振って応えた。キグルミオンの右の肩の上にしがみついていたヌイグルミオンがわざとらしいまでにその場で慌ててみせる。

「仲埜。油断するな」

 キグルミオンの左腕は何かを抱えるように胸の前で曲げられている。その上に立ちキグルミオンのお腹を掴んでいた板東がヒトミを見上げた。

「むっ。油断なんてしませんよ」

「最後の最後が一番気が抜けるんだ。ほら、そろそろ到着するぞ。反転準備」

「はいはーい。反転準備」

 拍子をつけた返事で板東に応えるヒトミに、ヌイグルミオン達が宇宙服のバイザーの中で首を左右に振って同調する。

「油断するなと言ってるだろ。ほら、反転だ」

「はいはい。反転しまーす」

 ヒトミが最後までとぼけた調子で応えるとその背中でバックパックが推進剤を噴き出した。

 バックパックが左右にそれでいて前後に斜めに傾いで推進剤を噴き出す。キグルミオンの体がその推進剤に押されてその場で縦を軸に回転を始めた。

 ヒトミの体がSSS8に近づきながらゆっくりと背中をその宇宙粒子加速器に向けていく。

 ヒトミが回転するに連れてその背中が露になった。バックパックはやはり慣性に任せるためにか、回転の始めにだけ推進剤を噴き出してすぐに沈黙していた。

 キグルミオンの掴めるところには全てヌイグルミオンがしがみついている。ヒトミの脇腹やバックパックの上にも何体かのヌイグルミオンが群がっていた。

 中でも尻尾の先は大人気なのか、数体のヌイグルミオンが競うようにぶら下がっていた。

 ヒトミが回転することでふわふわと漂い出した尻尾の先で、ヌイグルミオン達が慌てたように足をばたつかせた。

「たく……遊びじゃないんだぞ……」

 板東にため息を吐かせたのはヒトミの気の抜けた返事か、それとも己の視界の端に入った尻尾の先で遊ぶヌイグルミオン達か。板東は動きにくい宇宙服の中で諦めたように下を向く。

「そうだよ、サンポスキー、コカゲスキー、二ジンスキー」

 どうやら尻尾に取りついていたのはイヌとヒョウとウマのヌイグルミオンだったらしい。ヒトミが軽く首を巡らせて己の尻尾の先のヌイグルミオン達に注意した。

「お前もだ、仲埜。ほら、回転停止」

「はい。回転停止」

 板東にヒトミが応えると、もう一度背中で推進剤が左右斜めに噴いた。今度は先と全く逆方向に噴き出した推進剤がヒトミの体の回転を押しとどめる。

 その勢いで再びふわりと軌道を変えたキグルミオンの尻尾の先で、サンポスキー達が楽しげに揺れた。

 キグルミオンは回転こそ止めたがSSS8に近づいていく慣性はまだ生きていた。

 今度は背中を向けたままゆっくりとヒトミはSSS8に向かっていく。

 そのヒトミを迎えたのはSSS8から伸び出たロボットアームだった。

「背中のバックパックを掴まえてもらえると、お腹を打たなくっていいです」

 ヒトミの背中でバックパックが推進剤を噴き出す。最後の減速用だったらしいそれは、細かく噴射しながらヒトミの体をSSS8の前で減速させる。

「そんな間抜けなことをしたのは、お前だけだ」

「ああ! ヒドい!」

「ほら、油断するな」

「うぐ!」

 実際に油断していたのかロボットアームが背中のバックパックを掴まえると、背中を押されたヒトミがえずいたような声を漏らす。

「お腹も、背中も変わらんな」

「今のはちょっと油断しただけです! 隊長が話しかけるからですよ!」

 ヒトミがロボットアームに後ろに引かれながら声を荒げる。

 キグルミオンを掴んだロボットアームはSSS8のハッチへと吸い込まれていく。

「油断するなと、話してるんだから、それはお門違いだな」

「ああ、だって! だって!」

 ヒトミが抗議に右手をばたつかせた。

「ほら、油断してる。ぶつけるぞ」

 そして板東のそのあきれ顔の指摘の通り、

「アイタッ!」

 ヒトミはばたつかせた右手をハッチの入り口に盛大にぶつけた。

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