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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十七、不撓不屈! キグルミオン!
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十七、不撓不屈! キグルミオン! 12

「イワン大佐。たびたびの尽力、感謝する」

 板東がヒトミの横からぬっと顔を突き出した。宇宙服のバイザー越しに板東がリンゴスキーが持ったモニタを覗き込む。

 宇宙で太陽の光に対処できる色の濃いバイザーは、その表面に自身が覗き込んだものを写し込んだ。

「ふん。他が頼りにならんからな」

 曲面を描いた板東のバイザーにその本来の持ち主の姿が写り込む。

 イワンは己の言葉通りの自身を表そうとしてか、モニタの向こうで大きく胸を張った。

 バイザーの曲面にちょうど沿うように沿ったその胸は、実際のイワンの姿よりその曲線を誇張して写し出される。

「素直に、善意からだと言ってると、受け取っておく」

「ふん。当然のミッションをこなしただけだ。馴れ合っているような言い方は、よしてもらおう」

 イワンは今度は板東の言葉を跳ね返さんとばかりに張った胸に力を込める。それでますます胸を前に突き出した姿は、バイザーの中で更に誇張された姿になった。

 長く上下に引き延ばされ、また大きく前に胸を突き出したイワンが、バイザーの中でその素直ではない姿を写し出していた。

「イワンさん、助かりました」

 板東を押しのけるように今度はキグルミオンの巨大な顔が前に突き出される。

「ふん……」

 モニタの向こうでイワンが今度は顔ごと背けた。

「ウチの隊長の宇宙服も貸してくれてるんですよね。ホント、ありがとうございます」

「当たり前だ。迅速に装着できる宇宙服は、我がロシア式だと言ってるだろう。このような緊急事態には、我が国の宇宙服の思想の優位性が、その威力を発揮し照明される」

 イワンは顔を背けたまままくしたてた。

「よく分かんないですけど、とにかく感謝です!」

「ふん……」

 イワンがもうこれ以上曲げようがない首を、更に外側にそらそうとして肩ごと身を捻りながら応える。

「宇宙服は、隊長にクリーニングに出させてから返しますから」

「何処にクリーニングに出すつもりだ?」

 イワンが顔を背けたままちらりとだけ視線を前に戻した。何かに無意識に意識を取られ、慌ててそこから意識を引き離す為に視線が泳いだらしい。

 イワンの目が一瞬板東の宇宙服の腰辺りをとらえてからすぐに離れた。

「どうしたんですか、イワンさん?」

「いや……そんなことより、大尉。作業は順調か? 宇宙怪獣を倒したからといって、危険が全て去った訳ではない。お前らは宇宙で命綱なしで漂流しているのだぞ」

 イワンがようやく顔を正面に向けた。その眼光には冷たい光が宿っている。それは宇宙という現実を見つめる為に、その宇宙自体に凍りつかされたかのような冷静な視線だった。

「分かっている、大佐。ここは、宇宙だ。我々は孤立している。酸素も、推進剤も有限だ」

 イワンのその冷静な視線を真っ正面から受け止めて板東が答える。

「人間の体力も、精神力もだ」

「ああ。そうだな、大佐。それも分かっている。仲埜――」

 イワンに続けて応えた板東がヒトミに振り返る。

なんですか?」

「酸素は大丈夫か? 通信が限られている今、須藤くんは外部から管理してくれてないぞ」

「ああ、バカにしてますね。自分が吸う酸素ぐらい大丈夫ですよ。多分」

「『多分』じゃないか?」

「だって、実際分かりませんし。息苦しくないから大丈夫でしょ」

 ヒトミがキグルミオンで己の姿を見下ろす。

 そのキグルミオンの周りではボンベを引き連れたヌイグルミオンが近づいて来ていた。

「推進剤をバカスカ遣うお前のことだ、酸素も体力も無駄に遣ってないか心配だな」

「ぶーぶー。酸素のおおよその残量ぐらい、ちゃんと聞いてます。そんなに長く活動してません。体力は有り余ってます」

「そうか。それもそうだな」

 板東がバイザーの向こうで笑ったようだ。ロシア式の宇宙服が細かく揺れる。

「てか、さっきから精神力の方を全く心配してませんよ、隊長」

「それこそ無尽蔵だろ」

「ああ! こう見えても、さっきまでおセンチだったんですからね!」

「ほう……」

「ああ、疑ってますね!」

 ヒトミが抗議に腕を突っ張らせた。キグルミオンの巨体で両の拳を握りそれを腰に向かって下に突き出す。

「まあ、日頃のお前の言動を知ってればな」

「ああ! 言ってくれますね! 私だって今回は、宇宙の孤独をイヤという程、味わいましたよ! ホント、自分の心臓の音しか聞こえないし! でもなんか、こう……その心臓の音を聞いてると、色々と考えさせられて……ここは宇宙なんだ……でも、私も宇宙の一部で……宇宙創世以来、色んなことがあって……それが今の自分を形作っていて……そこも含めて私は宇宙に生きてるんだなって……」

 ヒトミは自分の言葉を重ねるごとに一度は強く握った拳を緩めていく。

「ほう……」

「と・に・か・く! 早く帰りましょう! 皆心配してますし!」

 怒ったのか照れたのかヒトミが最後はぷいっと横を向くと、

「……」

 板東がバイザー越しにその横顔を頼もしげに見つめた。

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