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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
二、抜山蓋世! キグルミオン!
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二、抜山蓋世! キグルミオン! 13

 宇宙怪獣がプラズマに焼かれ爆発した。

「……」

 その様子を久遠と坂東が(だま)って見つめ、美佳は前の席に手を伸ばしてユカリスキーを抱き寄せた。

 不意に引き寄せられたユカリスキーは、カメラを持ってない方の手を(あわ)てたようにわざとらしく上下に振る。

「……」

 久遠が目を上空に転じた。

 そこには変わらず茨状(いばらじょう)発光体が(またた)いている。

 その遠く向こうからは、自衛隊のヘリが編隊を組んで飛んでくる。

 戦闘終了まで待機していたのか、それは人員を運ぶ為の輸送機だった。

「変化なし――か……でも、二度続けて同じ場所に〝撃ち込んで〟きた……」

 久遠が一人つぶやく。

 天空に向けられたその視線は相変わらず(けわ)しい。まるで何かの実験結果を予想と見比べているかのようだ。

「仲埜。よくやった。後の処理は自衛隊に任せて、我々は撤収するぞ」

 久遠のつぶやきを聞いた坂東が、おもむろにマイクに向かって口を開いた。

「はい。でも、街が……」

 キグルミオンが周囲に首を(めぐ)らす。

 一度ならず二度までの戦闘で、周囲のビル群はそのままでは再生不能なのが見て取れる。

 途中からへし折れているビル。地盤から傾いている建物。破壊の爪痕(つめあと)はそれぞれだが、見た目にも危険だとすぐに分かる。

 その周辺の道路は、飛び散ったビルの破片で人の足の踏み入れる場すらない。

「派手にやったな。まあ、仕方がない。それに二度も同じところが(おそ)われれば、政府もここを一般人立ち入り禁止にするだろう。結果は同じだ」

「そんな……皆の街なのに……」

 キグルミオンが俯いた。

 その巨大な猫の着ぐるみが視線を落とした先は、先にヒトミがランニングで(まわ)っていた辻々だ。

 その平和だった街角にローター音をまき散らしながら、輸送ヘリが近づいてくる。

「ヒトミちゃん! とにかくご苦労様! 今は基地に戻って状況を確認しましょう!」

 自衛隊の輸送ヘリのローター音に負けじと、久遠がマイクに向かって声を張り上げる。

 坂東が黙って車のギアをバックに入れた。そのまま車を反転させると、ギアを戻して基地に車を走らせる。

「はい」

 キグルミオンがその後を追うように歩き出す。

 輸送ヘリはそのキグルミオンの視線の高さで丁度ホバリングを始める。

 現場への着陸は無理と見たのか、ヘリからはロープが垂らされ人員がそれを滑り降りてくる。

「……」

 ヒトミはそれを横目で見ながら、坂東達に続いて擬装(ぎそう)出撃用雑居ビルへと向かった。



 特殊行政法人『宇宙怪獣対策機構』――その地下格納庫。

 巨大な猫の着ぐるみが鉄骨に囲まれてつるされていた。

 そのキグルミオンの背中のチャックにロボットアームが差し込まれている。

 アームの先は真っ暗で何も見えない。

「ヒトミが気に病むことはない……」

 美佳が端末を操作しながら呟いた。

 その頭部には『安全第一』と書かれたヘルメットが目深に被せられている。

 ヘルメットの(ひも)はしめられていない。とりあえず被っているだけのようだ。

 そしてその周囲では同じく安全第一のヘルメットを被ったヌイグルミオン達が、どこかわざとらしげに(いそ)しげに走り回っていた。

「そうだけど……」

 ロボットアームに抱かれてキグルミオンのキャラスーツが、チャックの向こうから出てくる。

 アームはキャラスーツを取り出すや、そのまま床に向かって降りてくる。

 ヘルメットを被ったヌイグルミオンの一体――コアラのユカリスキーが、明滅する誘導棒を上下に振ってそれを迎える。

「隊長と、久遠さんは?」

 キャラスーツが格納庫の床に降ろされる。

 アームがその着ぐるみの体を離すや(いな)や、ヌイグルミオン達がわらわらと楽しげにキグルミオンに寄ってくる。

「国のお偉いさん達とお話し中……」

「ふーん」

 ヌイグルミオン達が猫の着ぐるみに、よじ登る勢いで群がってくる。

「我が『宇宙怪獣対策機構』は、二度に渡って被害を最小限に食い止めて宇宙怪獣を撃退した……政府ももはや、私達を軽んじられない……」

 少し遅れて美佳もキグルミオンの脇に立つ。

「結構街は壊れたけど」

「核を撃ち込むより、断然マシ……それに……」

 美佳が端末に指を走らす。

 端末には真剣な表情をした坂東と久遠の顔が大写しにされる。

 二人は坂東の席でモニターに向かって何やら力説していた。

 坂東が席に座りに、それを補佐するように久遠がその後ろに立っている。それを正面斜め前から美佳の端末がとらえていた。

 音声は切っているのだろう。久遠が食ってかかるように大口を開けて身を乗り出すと、坂東がそれを制するように手を挙げた。

 それが端末内で無音で再生される。

「……」

 美佳がその様子にしばらく目を落とした。

「『それに』?」

 ヌイグルミオンの一体――ウサギのリンゴスキーがぶら下がるようにキグルミオンのチャックを降ろした。

 その他のヌイグルミ達が、バランスを崩させまいとかキグルミオンの体を押し合いへし合いしながら支える。

 我こそはとキグルミオンの体を支えるヌイグルミオン達の頭がぶつかり、被ったヘルメットがかちゃかちゃと鳴った。

「何でもない……そのことについては、博士からちゃんとあると思う……」

「ふーん」

 むわっとした熱気とともに、ヒトミがキグルミオンのチャックから上半身を一気に出した。

 同時に鼻をつく匂いが周囲に()れ出る。

「ヒトミ、汗臭い……」

「むむ! 着ぐるみは汗臭いのが当たり前! むしろこれはこれで、慣れればなくてはならない着ぐるみ要素になるのよ! 汗臭くない着ぐるみなんて、匂いのないクサヤと同じよ!」

 ヒトミがヌイグルミオン達に支えながら、残る下半身もキグルミオンから抜き出す。

「理解し難い……コカゲスキー……」

 美佳がそう呼びかけながら端末に手を走らせると、(ひょう)のヌイグルミが駆け寄ってくる。

 コカゲスキーと呼ばれた豹のヌイグルミオンは、その両手にたくさんのスプレーを抱えていた。

 コカゲスキーは皆に近寄るや否や、そのスプレーを一斉に放り出す。

 ヒトミの周囲に集まっていたヌイグルミオン達が、それぞれにそのスプレーを空中で受け取る。

「何よ?」

 キグルミオンを取り巻いていたヌイグルミオン達が、狙いを定めるように身を乗り出してスプレー缶をヒトミに向けた。

「消臭……」

 美佳のその合図とともに、

「うばっ! うぎゃばっ! げほっ! げほっ!」

 おかしな悲鳴を上げるヒトミ向かって一斉に消臭スプレーが放たれた。

「ちょっと! ひどいわよ、美佳! げほっ! がほっ! むせる!」

「ふふん……」

 美佳がヒトミの抗議に鼻で笑って(こた)えると、

「……」

 端末の中の坂東が机に手を叩きつけ、怒りの様子も(あらわ)に席を立ち上がっていた。


(『天空和音! キグルミオン!』二、抜山蓋世! キグルミオン! 終わり)

改訂 2025.07.30

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