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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十七、不撓不屈! キグルミオン!
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十七、不撓不屈! キグルミオン! 5

「暗いところと、明るいところがあるのです……」

 宇宙に浮かぶキグルミオンが、こちらも宇宙に浮かぶ地球を見下ろす。

 見下ろすというのは重力の関係ではそう見えるということかもしれない。

 SSS8は高高度の宇宙を飛んでいるとはいえ、それは宇宙規模から見れば地球の表面を舐めるように飛んでいるに過ぎない。そのSSS8の軌道からは弾き飛ばされたヒトミだが、やはり地球の表面をかすめるように飛んでいるだけだ。

 地球はヒトミの目の前に迫るように浮かんでいる。

 ヒトミが軽く首を巡らせると、地球を時に見上げ、見下ろし、見つめることになった。自身の上下左右のみを基準に考えれば、ヒトミは地球をあらゆる方向から見ていた。

 夜の面を向ける地球は大陸や島の形、そして国と街の形をその人工の灯りで切り出している。

 その所々に不自然な穴があった。

「そうだな。真っ直ぐ分かれているとろは、経済格差をそのまま表している。国境を接して、夜まで煌煌と灯りが点いてる国と、切り取ったような暗闇を曝す国がある。どっちがいいとは、言えないのかもしれないがな」

 板東がうなづいた。

 半回転してしまったヒトミは板東に足先を向けている。板東自身はその場を動かなかった為、二人は今足先を互いに向けて正反対に立っているように浮かんでいた。

 上下左右に区別のない宇宙では二人はその姿勢に違和感がないようだ。

 二人はそのまま向きだけは同じ方向を向いて話し続ける。

「穴は……核で灼いたあとですね……」

「そうだな……」

「まるで鉛筆か何かで、黒く塗りつぶしたみたいです……」

 ぽっかりと空いた人の営みのないことを暗に示す穴。それをヒトミはじっと見つめる。

「インフラ全てが吹き飛ぶからな……十年やそこらで完全に復興はしない……残されるのは廃墟……それも何年かは人が立ち入り禁止になる穴だ……」

「……」

「だが勿論人類だって、ふさぎ込んでいるだけじゃない……」

 板東が不意に指を指した。

 ユーラシア大陸の一カ所、東南アジアの一角を板東が指差す。

 内陸にやや入った辺りにこちらもぽっかりと暗い穴が空いている。

「見ろ。あの穴。あれも核で灼いた痕だ。だがうっすらと灯りを取り戻し始めている」

 板東の指摘通りそこには穴状に暗くなってはいるが、それでも所々にが点いた穴があった。

 その光は線状にか細く伸びて、その脇にぽつりぽつりと小さな灯火めいた灯りをつけている。

「あそこ……人が居るんですか? 住んでるんですか、もう?」

「ああ。か細くとも線のように灯りが伸びているのは、多分道路だな。もっと細い線は河川かもしれん。それぞれの線の途中にある光は、再びそこに住み始めた住人の集落や街だな」

「復興してるんですか? 元の場所で?」

「国土が大きい国は、その場所を諦めて他の土地でやり直せるだろう。だが元々国土の限られた国は、そうはいかない。元よりそこで住んでいた理由が切実なときもある。そうおいそれと移住できない事情がある場合もありうる。何より愛着のある土地なら、そこでやり直そうという気になる方が強いはずだ」

「……」

 ヒトミが無言でキグルミオンの体を捻る。足下の板東に気をつけるように体を傾けてねじり、その自身が作り出した反動でゆっくりとまた腰を軸に回転し出した。

 ヒトミは板東と並んで地球を見ることにしたらしい。

「勿論できる限りのことをしてそれから復興している。俺もいったことがある」

「隊長が?」

 再び己の顔の横に浮かぶ板東にヒトミが振り返る。

「ああ、災害派遣の国際援助の一員としな。最初は目を覆った。だがすぐに目を見張った」

「はい?」

「人間ががれきを撤去すると、自然が勝手に芽吹いてくるんだ。撤去が間に合わない時は、そのがれきを呑み込む形でな。住んでいいとなると、子供は無邪気に走り回るし、それこそ新芽はその子供に踏まれても蹴られてもけろりと伸びてくる。何かありましたか――ってな感じでな」

「あはは」

「人類はしぶといぞ。地球もな」

 板東はヒトミにか、自身にか、それともその他の何かに向かってか力強く呟く。

「……」

「……」

 板東の言葉を最後に二人は無言で地球を眺めた。

「向こうからモールスだ……救出のプランがまとまったようだな……」

 板東が不意に呟く。

 SSS8の一角がリズミカルに明滅していた。

 板東がその通信を読み解こうとしてか無言でその明滅を見つめる。

「あ、朝だ……」

 ヒトミがその横でぽつりと呟いた。

 地球を90分で一周するSSS8。地球の夜の面を通るのはその約半分の時間しかかからない。

 先ほど夜の面に突入した地球は、すぐに新しい朝の面を迎えていた。

 ヒトミが地球の裏側から現れた太陽に目を向けると、

「そうね……何度でも朝は来るもんね……」

 朝の光がキグルミオンの瞳を貫くように輝かせた。

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