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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十六、明鏡止水! キグルミオン!
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十六、明鏡止水! キグルミオン! 10

「サラ船長!」

 久遠がその自慢の吊り目を見開いて天井を見上げた。SSS8のキグルミオン用司令室。その小さな部屋に久遠の裂帛の気合いめいた呼び声がこだまする。

 司令室のモニタには先と変わらず宇宙しか映っていない。モニタが時に切り替わるが、そこには角度が変わるだけで何処も宇宙だけを切り取り、肝心のキグルミオンの姿を表すことがない。

 久遠のあまりの迫力に板東も美佳もユカリスキーも久遠に振り返った。

「何? ミズ・久遠!」

 呼ばれたサラがすぐさま音声で応えてくる。

「お願いがあるわ! この映像に、スケールと時間を、正確に表示して!」

「へっ?」

「時間は記録が残ってるわよね! スケールもキグルミオンの大きさから割り出せるわよね! 後はコマ送りで――」

「なるほど! 位置・運動量・予測ね!」

 サラが久遠に皆まで言わせず応えた。そしてその次の瞬間には久遠達の頭上のモニタに、コンマ以下数十秒単位で時間と、センチ単位での大きさのスケールが表示される。

 モニタは自動でコマ送りで再生され、キグルミオンがゆっくりと宇宙怪獣に弾き飛ばされる様子が映し出された。

「どうするの、博士?」

 美佳が久遠の顔とモニタの表示を交互に見る。

「古典の授業よ、美佳ちゃん」

 久遠はじっとモニタを見つめる。キグルミオンは数コマでモニタの枠外に弾き飛ばされていた。その間に動いたキグルミオンの位置と、その時間経過がコマが変わる度に違う数字となって表される。

「ぐ……それはひょっとして、ニュートン力学のこと……」

「そうよ……」

 久遠はじっと流れるモニタの数字を目で追った。

「どうする気だ、博士?」

「古典物理学――ニュートン力学ですわ、隊長。単純にどれだけの勢いで吹き飛ばされたかで、今ヒトミちゃんが何処に居るか計算します。移動距離はキグルミオンから憶測。位置もキグルミオンの見た目の大きさの変化からどうにかなります。後はコマ送りの秒単位で時間経過が分かりますから、だいたいの位置は予測できます。弾かれた時にスピンしてるようですから、それも計算に入れて……」

 板東に答えた久遠はもう既にモニタにキグルミオンの予測位置を表示させていた。

 計算そのものは頭の中でしてしまったらしい。久遠は目で数字を追うだけで、特に計算式などを呼び出さずに結果だけ情報端末に入力し終えてしまう。

「これか……」

 板東がモニタを見上げる。そこには久遠が表示させた計算結果が、立体的な同心円を描いて表されていた。その同心円は前後に多少引き延ばされていた。地上に落ちる雨粒のように引き延ばされた同心円がモニタに描かれていた。

 同心円には数値が一緒に表示されている。同心円の中心にいく程確率は低くなり、外側に行く程確率は高くなる。だが中心は範囲が狭く、外側は範囲が大きい。

「いいえ、隊長。これは、宇宙怪獣に飛ばされて、そのまま飛んでいった場合の予測です。ヒトミちゃんが、宇宙怪獣に飛ばされて。黙って飛んでいくと思います?」

「いや、すぐさま体勢を整えるな」

「なら……」

 久遠がもう一度情報端末に指を走らせた。

 モニタの状の同心円がSSS8よりに移動する。同時に同心円が小さくなり、予測範囲が先よりも狭められる。

「これで、少なくとも、コントロールが戻り次第。仲埜を支援できるということだな」

「勿論です。ですが、コントロールをいつ取り戻せるは――」

「分からんな……よし、分かった。サラ船長!」

「何? バンドー?」

「博士の計算結果は見てるな? カメラのコントロールが利かない今――」

「オッケー! 目視ね! その方向が見える窓の近くで、避難してるスタッフに協力を要請するわ! 何処まで見えるか分からないけど!」

「頼む!」

 板東はサラに応えるとそのまま身を翻した。

 板東は一蹴りで体を浮かせるとドアまで飛んでいく。

 ドアの横のバルブにしがみついていたライオンのヒルネスキーが、板東の気配に首だけ振り返る。

「隊長。どちらへ?」

 久遠の呼びかけを背にヒルネスキーがバルブから手を離した。

 ヒルネスキーの体が離れるや否やドアが開き、

「だいたいの場所が分かるのなら、やれることはある――ここは任せた」

 板東は振り返る間ももどかしげにドアの向こうに消えた。

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