十四、空前絶後! キグルミオン! 15
SSS8の長い通路。何処までも続くその通路を女子高校生二人と縫いぐるみの集団が漂っていた。
先頭をいくのは美佳。ご機嫌な様子で胸にユカリスキーを抱いている。
その後ろに続いたのは四肢の力の抜けた様子のヒトミだった。今はペンギンカティの着ぐるみを着ていない。ヒトミは後ろからヌイグルミオンに背中を押されていた。
そのせいか気力が出ないと言わんばかりにヒトミは無重力に身を任せ四肢を下に垂らしている。
ヒトミは後ろから数体のヌイグルミオンに背中を押してもらってようやく前に進んでいた。
「あら? ヒトミちゃん、元気ないわね」
そのヒトミ達を久遠が迎える。
先に居た展望スペースからひょっこりと顔を出し、久遠はやって来たヒトミ達を見た。
「博士……地球、見に来た……」
美佳が久遠の横をご機嫌なままに曲がり展望スペースの奥へと入っていく。
「負けました……」
その後ろに続いた元気のないままのヒトミが久遠に応える。
「ん? 何のこと?」
「部屋では狭いんで、ヒトミを強制イジェクトした……ヌイグルミオンのわらわら力が、ヒトミの抵抗もむなしく勝った感じ……」
美佳が展望スペースの奥で振り返りヒトミに代わって久遠に答える。
「ああ、さっきのあれ。まだ引きずってたの?」
「せっかく、着ぐるみ着てていい――って話になったのに!」
ヒトミがいきなりばっと顔を上げた。やはりいつまでも弱気になっているのは性に合わないのか、ヒトミは垂れていた四肢を四方に伸ばして顔も上げた。
その勢いに吹き飛ばされたと言わんばかりに後ろで背中を押していたヌイグルミオン達が吹き飛んでいく。ヌイグルミオン達は宇宙故の無重力を思う存分に堪能するように、互いにあちこちぶつかりながら四方八方に飛んでいった。
「ぶーぶー! キグルミオンを着てるのは、各国のさささ……さい……」
「猜疑心?」
「そう! それです、久遠さん! 他の国の猜疑心を――どうたらこうたらって言うから! カティならまだ大丈夫って、話じゃなかったですか!」
「それはそうだけど。モニタ越しに見たけど、流石にあの部屋に寸胴なカティは狭いんじゃない?」
「だって! ペンギンですし! あの鳥類のくせに、そりゃその体で空は飛べないでしょう――っていう、わがままボディが、ペンギンのいいところじゃないですか! 寸胴で当たり前です!」
「まあまあ、ヒトミちゃん。押さえて押さえて。奇麗な地球でも見て、心和ませましょう」
久遠が展望台に引っ込むと、ヒトミがその後ろに続く。
展望台の中では既に美佳が先に窓に張りついていた。美佳は文字通り張りついていた。子供が電車の車窓から外の景色を覗くように、顔をぴったりとガラスにくっつけていた。
美佳の腕の中ではユカリスキーが同じように窓に張りついている。後ろから美佳に押されその顔は縫いぐるみ故に真っ平らに潰れていた。コアラ特有の大きな鼻を顔の奥にめり込ませながらそのボタンの目をガラスにくっつけている。
「ああ! 美佳ずるい!」
ヒトミがその後ろに慌てて飛んでくる。
「ふふん……独り占め……正面は私とユカリスキーがもらった……」
「ええ! ちょっとずれてよ!」
ヒトミが美佳の横に並ぶ。
その後ろでは一度は飛ばされた縫いぐるみ達がわらわらと集合し出していた。入り口に一度に殺到したヌイグルミオン達は、互いに押し合いへし合いしながら展望台に入ってくる。
「やだ……」
「ええ! ヒドい!」
「ぐふふ……世の中は常に非情……」
「私だって見たい! 地球見たい!」
あくまで正面から見たいのかヒトミが美佳の後ろからちょろちょろと顔を覗かせようとする。
「宇宙に上がって三日も経ってるくせに……今更展望台ぐらいで大人げない……」
そして後からやってきたヌイグルミオン達がわらわらと他の窓に取りついていく。
ヒトミが正面にこだわっているうちにヌイグルミオンは次々と後ろからやってきて、
「いやいや、確かに見たけど! こういうのは、皆で見たいじゃない! ああ! 皆まで!」
窓はあっという間に縫いぐるみで覆い尽くされヒトミが覗くスペースはなくなっていった。