十四、空前絶後! キグルミオン! 6
他の作品の内容を、間違ってアップしてしまいました。
14日18時ほどまでに、内容を差し替えます。
失礼しました。
20131114 00:33 境康隆
「はい?」
久遠の唐突の言葉と、突然のモニタの発光にヒトミが素っ頓狂な声を上げる。
久遠に振り返ったヒトミのペンギンの横顔をモニタの光が灼いた。そしてその光はゆっくり掻き消え、光の代わりに何か物質が宇宙へと飛散していくのがモニタに映し出された。
「星は生まれて死んでいくのよ。私達の地球もいずれは死ぬわ。月がどっかいって環境が激変するか。不運にも巨大隕石が落ちてくるか。もしくはもっと運悪くガンマ線バーストに打ち抜かれるか。地球上の生命の絶滅はを地球の死だと考えても、色々なことが考えられるわね。ましてや太陽が膨張してその熱に呑み込まれたり、銀河同士の合流でどっか他の星とぶつかったりと、星そのものの最後も勿論あり得るわ。まあ、星が最後を迎えること自体は、驚くことじゃないわ。それは自然の成り行きよ」
「はぁ……」
「まあ、宇宙怪獣までやって来るしね。地球の最後を気にしても仕方がないんだけどね」
「宇宙怪獣は、キグルミオンが倒します」
ヒトミがペンギンの羽で力こぶを作る仕草をしてみせる。
その後ろで美佳に抱かれたユカリスキーが同じ仕草を真似してみせた。
「はは、頼りにしてるわ。でね、ファーストスターは大きな星だし、何よりそれ以外の星なんてあんまりないし、あっても同じファーストスターの仲間だから、他の星に呑み込まれたり、ぶつかったりする前に、大爆発を起こして潰れるの。これが超新星爆発。このときファーストスター内部に蓄えられていた元素がまき散らされるの。さっき言った鉄とか、炭素とかね。『宇宙の重元素汚染』とか呼ばれるけど、これのお陰で宇宙は単純な元素だけじゃなくって、私達の今をまさに形作る物質が宇宙に散っていったのよ」
久遠は説明の最後に自身の右手を前に出した。まじまじとその手を見つめ、それが正に宇宙が作った物質だと示そうとかヒトミに差し出した。
「人間は、炭素の生命体よ。まあ、他の動物もそうだけど。この炭素がまずファーストスターで作られた。ましてや、当初考えられていたよりも、より多くの炭素がファーストスターでは作られていたようなの。そしておあつらえ向きに、ファーストスターはそれを内に留めることなく、超新星爆発という形で宇宙にまき散らしてくれるわ。ファーストスターはその大きさ故に、あまり宇宙に留まっていられないから」
「へぇ……」
ヒトミが久遠の手を覗きん込んで素直にうなづく。
「そう。ファーストスターが死んでくれて――宇宙はその様子を一変するわ。次の世代の星々が誕生するの。この時にまき散らされた、炭素や鉄などを次の星が原料としたの。それが、セカンドスター。水素とヘリウムだけを原材料にした星しかない世界から、炭素や鉄を原材料にした星が生まれてくる世界を、ファーストスターは自らが死ぬことで作り出すわ。これは今の太陽のような星で、ファーストスターとかと比べれば小さな星よ。でも生命に大事なエネルギーを生んでくれるのは、やはり太陽のような常に安定的に燃えてくれる小さい恒星でもあるわ。そしてその時恒星になり損ねた、惑星のような星の素にも、これらの元素はなってくれるわ。地球で言えば、生命の元となる元素はファーストスターの中で生まれたことになるわね。私達はまさに星の子なのよ。出発点から考え、今まさにそのことを考えている私達の体を見ると、全てファーストスターのお膳立てのような気もするわね。不思議よね?」
「おお……確かに不思議なのです……」
「宇宙の最初に現れ、いそいそと必要なものを揃えて爆発するファーストスター。それを受け取って作られるセカンドスター以降の世界。それは炭素の生命を生み出し活動させるに、私達がここに居る為に、十分に整った世界……」
「おお……」
「運命的なものを感じる?」
ヒトミの素直な感嘆の声に、久遠はすっと目を細めた。
久遠の目は何か試すかのようにヒトミのペンギン目を静かに見つめる。
「……」
美佳はそんなヒトミと久遠の黙って見つめる。
「むむ! 何か神秘的なものを感じるのです!」
ヒトミはその久遠の目の光に気づかなかったのか、無邪気に両の羽を羽ばたかせて答えた。
「ふふ……そうね……でも、あまり神秘を感じると、宇宙は科学のものではなくなるわ」
「はぁ……ダメなんですか?」
「それは立場に寄るわね。私は科学者よ。運命的だとか、神秘的だとか。感想としては呟いてもいいけど、それを論文にすることはできないわ――」
久遠はそこで一度目をつむった。
久遠はもう一度目をゆっくりと開けると続ける。
「私は科学者だもの。科学的に考えるわ。たとえ宇宙怪獣襲来の時代でもね。でね、これは色んなところに顔を出す問題なの。前に少し話したわね? 宇宙で私人類が認識できる物質は、宇宙全体の4%でしかないって。水素やヘリウム、鉄に炭素も、宇宙全体では、私達が見ることのできる4%側の物質の一部でしかないの。残りの96%は目で見ることはおろか、普通の観測手段では確認することもできないわ。それでもそんな物質があって初めて宇宙は成り立っている。それと宇宙を支配する法則。これらの法則も、ほんのわずかに定数の数値が違うと、私達が存在できない可能性があるわ」
「はぁ……」
「色々なことのあった結果、色々なことを必要とする我々が居るんだから、何も神秘的に考える必要なんてない。結果から見れば、必然だということね。そうなのかもしれない。どんなに奇跡的でも、事実私達は存在するんだもの。奇跡的な色々なことがなかったら、それを考える私達自身がいないから、色々なことに神秘を感じる必要はないということね。それに別にこれも確率の上でありうることなら、実は私達以外の確率に漏れた世界があるだけじゃないか。そう考えることもできるわ。並行宇宙が沢山生まれていて、私達以外の宇宙は〝ハズレ〟なのよ。もしくは宇宙は実は何回もやり直していて、私達はたまたま〝アタリ〟の時代に生きているか。宝くじに当たった人が、外れた人のことは、居るだろうけどよく分からないないようにね。まあ、この世界が本当にアタリかハズレかは、正確には分からないんだけど」
「はぁ……」
ヒトミは久遠の言葉に着いていけないのか、生返事を繰り返した。
久遠はそれでも気にせず続ける。
「人に寄ってはこの私達が存在できることをもって、神秘や運命に結びつけるわ。でも科学者はそうはいかない。だからまったく無視して一蹴するか、それでも考える必要があったわ。そして考える人の為に言葉を用意したの。それが『人間原理』。これを強く意識するか、弱く考えるかで、皆、心の中のバランスをとることができるわ。私は宇宙怪獣の相手をしていると、この人間原理の言葉の間で大きく揺れ動いちゃうわ。まだまだよね?」
最後は弱気な顔を見せた久遠に、
「よく分かりません」
ヒトミはペンギンの首を振って答える。
「そうね。少し急ぎすぎたかしら。まあ、もう少し、宇宙の普通の神秘に酔いましょう。こっちよ」
久遠は無重力で身を翻した。
久遠は横をモニタが流れていく。そこでは宇宙の歴史が足早に語られていた。久遠は宇宙の歴史を今に向かって飛んでいく。
ヒトミと美佳がその後に続いた。
久遠のゆく先に見慣れた青い星が浮かぶ。
「宇宙の一番の神秘。勿論それは私達の地球よ」
久遠はその前にゆっくりと降り立った。