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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十四、空前絶後! キグルミオン!
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十四、空前絶後! キグルミオン! 4

「蛇の着ぐるみは、アクションがとりにくそうなのです」

 蛇のイラストを見上げながらヒトミがうんうんとうなづく。

「あっ! 私なら! 蛇の着ぐるみでも、アクションとってみせますけどね!」

 だがすぐにヒトミは自分の言葉を打ち消した。ペンギンの羽を前言を撤回する為にか何度もバタバタと羽ばたかせる。無重力故にその様子は、ペンギンが飛べない羽で飛んでいるように見えた。

 その横をウサギの縫いぐるみがふわふわと通り過ぎる。こちらは耳をパタパタと羽のように動かした。ヒトミに対抗して、耳で空を飛んでいるつもりらしい。

「あはは。知ってるわ、ヒトミちゃん――」

 久遠はそんなペンギンに微笑んで続ける。

「そうよ。宇宙というのは、ウロボロスの輪なのよ。まるで自分の尾を噛む蛇なの。この巨大な宇宙を知る為には、何処までも小さな素粒子の世界を知る必要があるわ。ヒトミちゃんが撃ち出すクォーク・グルーオン・プラズマなんかがいい例ね」

「キグルミオンの必殺技がですか?」

 ヒトミが上半身を大きく横に傾けた。ペンギンの体で大げさに小首を傾げる仕草をそれでヒトミは作る。

 その横にライオンのヌイグルミオンが無重力に身を任せて漂って来た。ライオンのヒルネスキーはヒトミの後ろでたてがみをなびかせて何度もうなづいてみせる。どうやら必殺技という言葉に負けまいと、己の勇ましいたてがみをアピールしているようだ。

「クォーク・グルーオン・プラズマは、何もキグルミオンが創り出してる訳じゃないわ。あくまで自然の現象の力を借りているだけよ。クォーク・グルーオン・プラズマは、クォークやグルーオンが分離してプラズマ化した状態のことなの。言葉にすると簡単だけど、本当はこれはとてつもないことなのよ。この状態は本来は低温・低圧の状態では再現不可能なの。ただし宇宙誕生のビッグバン直後の世界を満たしていたと考えられているわ。標準的な宇宙論に寄るとね。ビッグバンのおよそ十マイクロ秒後の宇宙はとても高温で、クォーク・グルーオン・プラズマが存在していたって考えられているわ」

「重マイクロ病後……宇宙、思い病気の後だったんですか?」

 ヒトミがきょとんと久遠に振り返る。

 クマのハニースキーがその言葉にばっとヒトミに振り返った。どうやら先の診察室での会話を引きずっているようだ。ハニースキーは何も聞こえないと言わんばかりに両耳を両手で覆って逃げていく。

「違うわ。数字の十に、小さな単位を表すマイクロと、何秒後の秒後よ。つまり十のマイナス六乗秒後のこと。百万分の一秒後のことね」

 久遠がヒトミに説明しながら宇宙の年表を指差す。そこは宇宙の始まりの方だった。久遠の指先が今居る位置から文字の読めないモニタの一角を指し示した。

「えっ? 宇宙誕生から、何億年ですよね? この世界?」

 ヒトミがそちらに宙を漂って移動し出した。

 その後ろでチーターが弾かれたように身を翻す。チーターのカケルスキーがヒトミの後を追って宙で手足をかき出した。

「ええ、一三八億年よ。時おり一億年ぐらい、学説が揺らぐけど」

 久遠がその後に続く。

「どっちにしろ、凄く長いんですよね? それでマイクロ秒なんですか?」

「十マイクロ秒よ。ええ。そこら辺の単位の感覚も、ウロボロスの輪ね。頭がどうにかなってしまいそうな短い時間の出来事を知らないと、気の遠くなるような長い時間でできた宇宙のことは分からないの」

「ほえええ……」

 ヒトミが久遠の指差した説明文の前に漂い着く。

 その一瞬前にカケルスキーがその場所にたどり着いた。こちらもふわふわと浮きながらだが、その手足だけはせわしなく動かしていた。チーターの誇りにかけて、駆けっこには負けまいと頑張ったようだ。そしてカケルスキーは説明文前のゴールを過ぎても、一度ついてしまった勢いのままに遠くに飛んでいった。

「そうよ。驚くか、呆れるしかないわよね。この宇宙。でもどうして今この百三八億年後の我々の居る世界が成り立っているかを知る為には、このマクロ秒とか当たり前に出る世界の本当の最初の出来事を知る必要があるの。大きさで言えば約四五十光年の世界を理解する為に、十のマイナス二十乗以下の世界を理解する必要があるのね。そうね、クォーク・グルーオン・プラズマの他も、色々と考えないといけないわ。本来光と同じく何ものとも反応しない物質ばかりだった世界に、質量与えたヒッグ粒子なんかもそうね。そもそもこの世界に物質と半物質は同じ数だけ存在したはずなのに、我々の世界を形作ってくれている物質だけが世界に残った超対称性の破れなんかも、この時代やスケールから考えないと行けないわね。ああ勿論インフレーション理論も――」

 久遠は初期の宇宙の説明文の前に来ると、すらすらとヒトミに向かって話し出した。

「むむ……頭が……」

 久遠の声を耳にし、ヒトミが頭痛を我慢するように頭を両手で抱えた。

「どうしたの、ヒトミちゃん? まさか戦いの後遺症?」

 久遠が説明を中断し急に頭を抱えだしたヒトミを心配そうに覗き込む。

 その言葉に遠くに離れていたハニースキーがもう一度ばっとヒトミ達の方に振り向いた。ハニースキーは遠くから恐る恐る覗くように、他のヌイグルミオンの背中に隠れてヒトミ達の様子をうかがう。

「いえ……スケールの違いやらなんやらで、ペンギンの頭では理解できないです……」

「あら、さわりだけのつもりだったけど? そうね……もう少しマクロな世界から説明するわね。ヒトミちゃん、こっちよ」

 久遠はペンギンの手をとって床を蹴った。

 久遠はそのままヒトミを連れて説明文の前を来た方に戻っていく。久遠とヒトミが宙を進む連れて、目の前の説明文は宇宙の歴史を年代順に追っていっていた。

 久遠とヒトミとヒトミの目の前で宇宙の歴史が始まり流れていった。

「宇宙が始まってすぐは星なんかないから、しばらく私達の目から見れば暗い時代が続くわ――」

 久遠の言葉通りモニタの中では暗い図が続く。

 しばらく行くとその中で一点だけぽつんと光がモニタに現れる。

「そしてそんな時代が終わり、ファーストスターと呼ばれる星が生まれてくるの」

 久遠は宙から降り立ちヒトミをその光――ファーストスターへと導いた。

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