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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十三、勇猛精進! キグルミオン!
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十三、勇猛精進! キグルミオン! 11

「ヒトミ……おヒサ……」

 キグルミオンの格納庫。その指令室らしき部屋のドアが開きぬっと眠たげな半目が現れた。

 美佳はユカリスキーを胸に抱きながら床を蹴って部屋に入ってくる。

 両手で美佳に抱かれていたユカリスキーはその塞がっている両手の代わりと言わんばかりに自身の両手を激しく振った。

「美佳!」

 ヒトミは美佳と目が合った瞬間に床を蹴っていた。ヒトミは無重力故にそのひと蹴りで跳び、美佳に両手を伸ばして迎えるよう飛んでいく。

「大丈夫だった? 怪我は!」

「おかげさまで――」

「ホントに? 痛いところは――」

 ヒトミがまくしたてながら美佳に突進していき、

「ヒトミ……ぶつか――」

 一瞬で青ざめた顔に変わった美佳に物の見事に頭から激突した。

「アイタッ!」

「痛い……」

 オデコとオデコを激突させるヒトミと美佳。二人は再会するや否やそれぞれが来た方に仰け反り跳ね返った。

「あいたた……」

「ぐぬぬ……」

 宇宙故の作用・反作用の法則がきっちりと働き、二人はそれぞれに額を手で押さえながらその勢いで後ろに漂っていく。

「何をやってるんだ、仲埜?」

 その様子を板東が呆れた言わんばかりに両腕を組んで見つめる。

「作用……反作用の実験です……」

 ヒトミが額を押さえながら応える。

「そうか……宇宙を堪能してるようだな……」

「はい……」

「危なかった……ユカリスキーが居なかったら、即死だった……」

 美佳も自身のオデコを押さえながらふわふわと浮かんだまま呟く。弾け飛んだ勢いは弱まったが、美佳はそのまま勢いに任せて司令室を漂う。

「ユカリスキー、今回は役に立ってないわよ、美佳」

 ヒトミがようやくその身を立て直しながら美佳に向き直ると、

「ユカリスキーを抱きしめていなければ……恥ずかしくって、即死するところだった……危ない、危ない……」

 その美佳は体勢を整える気もないのかぷかぷかと浮かび続けながらユカリスキーの後頭部に顔をうずめた。

「恥ずかしくって悪かったわね!」

「まったく……ヒトミはいつも真っ直ぐ過ぎ……少しは考えて行動する……」

 美佳がようやくその身を床に着地させた。美佳は着地と同時にユカリスキーを両手で抱きしめ直した。

 手が塞がった美佳に代わりに今度はユカリスキーが身をよじって手を伸ばした。コアラの縫いぐるみは自身が子供のように抱かれているにもかかわらず、よしよしと子供をあやすように美佳の赤くなった額を撫でた。

「その余裕があれば、よしとするか。美佳くん。無事で何よりだ。博士は?」

「後から来る……サラ船長に、STVの状況を報告してから……勿論、無事……ああ、この後すぐ、私は医務室にいくようにとのこと……」

 板東に応えながら美佳が床を蹴る。

「そうか。額が大惨事だからな」

「そう……オデコが悲惨なことになってるから……診てもらわないと……」

「ああ、もう! しつこい! 悪かったわよ!」

 板東を中心にヒトミと美佳がふわりと着地した。

「お前も、診てもらうか、仲埜?」

「私は、へっちゃらですよ。これくらい。コブもないですし」

「頭のことなら、内部も重要……でも、ヒトミの頭が悪いのは前からか……」

「酷い言い方だよ、美佳!」

「ぐふふ……冗談……さて、今の私たちの状況……」

 美佳がユカリスキーを殊更抱き寄せて話を切り替える。

「そうだな。怪我の功名だな。我々の状況は改善された」

「そうなの、美佳?」

「ぐふふ……転んでもただでは起きないのが縫いぐるみ……転んだ仕草も、そこから立ち上がる様も……愛おしいまでに可愛いもの……」

「えっと……そんな話だっけ……」

 怪しい笑みを浮かべる美佳にヒトミが頬をぽりぽりと掻きながら尋ねる。

「ふふん……とにかく、ヌイグルミオンは船内を自由に移動できるようになった……キャラスーツも大丈夫……」

 美佳が身を乗り出し板東の背中にあった端末に手を伸ばした。そこに設置されていたモニタに新たな画像を表示させる。映し出されたのはわらわらと船内をいく縫いぐるみの集団だった。

 ヌイグルミオン達は言葉こそ発しないものの、遠足の園児よろしくふざけ合いきょろきょろしながら楽しげに船内を移動していく。

 その縫いぐるみの群れを通りがかった皆が見守り、特に女性の船員が黄色い喚声を上げて見送った。

「ほら、ヌイグルミオン大歓迎されてますよ! 隊長! やっぱ私も、わざわざ脱ぐ必要なかったんですよ! キャラスーツもモテモテですよ、きっと!」

 ヒトミが目を輝かせながら板東に振り抱えると、

「それでも、非友好的な連中から見れば『わざわざ』着ていることになる。これ見よがしともとられかねん。わざわざ刺激するな。キャラスーツは却下だ」

 板東が鋭く目を光らせてヒトミに向き直る。

「ええっ! ぶーぶー!」

「またそれか。ブタのキャラスーツがあっても却下だ」

「ちぇ……はーい……」

 ヒトミは渋々と返事をする。

「ふふん……ブタのキャラスーツはないけど、アレはある……」

「何、美佳?」

「キャラスーツは刺激が強すぎる……でも、ヒトミには着ぐるみの練度を上げる訓練が必要……そこで、持って来た……」

 美佳がもう一度端末を操作するとヌイグルミオンの一角が大写しなった。

 複数のヌイグルミオン達は協力しながら何か人の背丈以上の大きさの布を持ち上げていた。その布はヌイグルミオンが歩く度にそれに揺られてゆらゆらと上下する。

 その布の端から短い羽と水かきのついた足が突き出ておりやはりそれも揺れていた。

 そのヌイグルミオン達は先のヌイグルミオン達とは別行動だったようだ。モニタの映像が切り替わり『格納庫』と各国語で書かれた扉の前でヌイグルミオン達は止まる。

 ヌイグルミオン達はその前でその布を立てるように置いた。

「おお!」

 その映像にヒトミが感嘆の声を上げてドアを振り返ると、

「カティ!」

 ヒトミの続くその呼び声とともにペンギンの着ぐるみの全身がドアの向こうに現れた。

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