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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十三、勇猛精進! キグルミオン!
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十三、勇猛精進! キグルミオン! 10

「隊長……ヒトミは……」

 板東が視線を落とした先。そこにあったモニタに、眠たげな半目が大写しになった。半目は顔ごと斜めに(かし)げていた。半目の下に続く(ほほ)が、ぷっくりと何かに押されて(ふく)らんでいる。

 美佳だ。

 美佳の(ほほ)をユカリスキーの柔らかな頭が押しのけ(ふく)らませている。美佳が思い切りユカリスキーを抱きしめ、頬に寄せているらしい。美佳は顔が(かし)ぐ程、久しぶりに会ったヌイグルミを抱きしめていた。

 モニタの中の美佳とユカリスキーは、上下左右にに()れていた。そして背後に時おり天井や壁らしきものが見える。

 美佳がユカリスキーを抱きしめながら、SSS8内を移動しているらしい。

 ユカリスキーの手も時おり写った。どうやらユカリスキーに自撮りさせながら、ふわふわと浮いているようだ。

「美佳くんか……怪我はないか?」

 モニタに映った美佳の姿に板東が(こた)える。

「ふふん……もちろん無事……博士も大丈夫……」

「そうか」

 板東(坂東)の胸が大きく上下した。ほっと一息(ひといき)安堵(あんど)の息を()いたようだ。坂東の緊迫していた目元が(ゆる)む。

「問題ない……今ユカリスキーと、そっちに向かってるところ……」

「ヌイグルミオンと船内を移動しているのか? 大丈夫か? 色々と関係各国がうるさいぞ」

 坂東はもう一度目元に力を入れ直した。

「ぐふふ……政治的なことなら、この私に抜かりはない……」

「ん?」

「船長の懐柔(かいじゅう)――もとい説得には成功した……船長が他のクルーも説得してくれる……これからはヌイグルミオンも、船内を自由に移動できる……」

「そうか。大したもんだな」

 坂東が美佳に(こた)えると、その前のガラスが外からトントンと叩かれた。ガラスの向こうには猫の着ぐるみが宙に浮いていた。

 キャラスーツを着たままのヒトミが、アクトスーツを背に浮いている。その手は(こぶし)が握られており、その拳の背でノックをしたようだ。

 美佳との話に集中している坂東の気を引く為にガラスを叩いたらしい。

「ふふん……それと大使として、ダレルスキーに船長室に常駐してもらうことになった……」

「ナマケモノのヌイグルミが、役に立つのか? あれが何か働いてるところは、見たことがないような気がするが……」

 美佳に(こた)えながら、坂東が入ってこいとヒトミにアゴで内側を指し示した。

 坂東にうなづいてヒトミの姿がガラスの向こうに消える。

「居るだけで、(いや)される……サラ船長も『当たり』の人だと、博士から聞いてた……女子力を間違った方に使う人だと……ふふふん……さすが私……恐ろしいまでの政治力……」

「そうか……」

「それにデータリンクしてるヌイグルミオンが、一人でも船長の側に、常時居てくれたらそれでオッケー……」

「情報が(みつ)になるな。助かる」

「ふふん……何のこれしき……ところで、ヒトミは……」

「今、こっちに入ってくるところだ」

 坂東が壁の向こうに目をやる。その視線の先の壁にあったのは、作業員用の出入り口のドアだった。そこはまだ開く気配がない。

「分かった……それと――」

 美佳が何か続けて口にすると、

「ぷっはー! 宇宙船は空気が新鮮じゃない!」

 ドアが唐突に開けられキャラスーツを脱いだヒトミが現れた。中のヒトミはTシャツに短パンのラフな格好だった。ヒトミのその声が美佳の声にかぶった。

「よくやった、仲埜。少し休んでろ」

「はーい。美佳からですか?」

 ヒトミは坂東に(こた)えると、近寄って来て手元をのぞき込む。

「そうだ」

「美佳、ヤッホー。大丈夫だった? 怪我ない?」

 ヒトミはモニタの向こうに手を振りながら美佳に呼びかけた。

「ヒトミ……おかげさまで……さすがユカリスキーとリンゴスキー……見事な救援劇だった……」

「いや……主に頑張ったのは、私とイワンさんなんだけど……」

「そうだった……」

「そうだったよ」

「そう……」

 モニタの向こうで一度目を深くつむった美佳が、

「突如我々を襲う大規模太陽フレアによる太陽嵐(たいようあらし)――」

 半目を開くやきらりと瞳を光らせ唐突に語り出す。

「はい?」

「荒れ狂うその太陽風の磁気嵐の中……機器に異常を来たし爆発するSTV――」

「はいはい?」

 ヒトミの()頓狂(とんきょう)な返事を(あい)()に、美佳が尚も話を続ける。

「助かる為には一刻も早くSSS8に移らないといけない……だが運悪く大量のデブリ群の銃撃のような襲来にも見舞われ……内部では集団ヒステリーから起こった、主導権争いによるクルー同士の(みにく)(あらそ)いも始まり――」

「あの、美佳?」

「もはやこれまで――と思われた(まさ)にその時、私の前に現れた一匹のコアラの影……危険を(かえり)みず爆発とデブリの中を、颯爽(さっそう)と現れたユカリスキーが、絶望にヒザを着きそうになっていた私に手を伸ばし……」

「いや、そんな状況なかったから」

「そうね……なかったね……言ってみたかっただけ……」

「もう」

「ぐふふ……今、そっちに向かってる……通信終わり……じゃあ、また後で……」

「じゃあね」

 ヒトミの返答とともに美佳からの通信が終了する。

「美佳、元気そうでしたね」

「ああ、博士も無事らしい」

 ヒトミと美佳の通信を後ろで見ていた坂東が(こた)えた。

「ユカリスキーと再会してましたし。何だがご機嫌でしたしね」

「ああ、それだがな。ヌイグルミオンの船内の移動の許可が出た。これからは自由にヌイグルミオンを連れて回れる。まあ、どやどやと集団で移動してれば、別の意味で怒られるだろうがな」

「本当ですか? あれ? じゃあ、キグルミオンは? キャラスーツは?」

 ヒトミが首を(ひね)った。

「そっちの許可も出た。お前に代わる前に、美佳くんが言っていた」

「ええ! 早く言って下さいよ! わざわざ脱いで来たのに!」

「脱ぐ方が『わざわざ』なのか?」

「そうですよ! こうしちゃ居られない! キャラスーツ、着てきます!」

 ヒトミが(あわ)てたようにそう告げて身をひるがえすと、

「わざわざ着んでよろしい!」

 坂東はそのヒトミの襟首(えりくび)を、むんずとつかんで()めさせた。

改訂 2025.09.17

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