十三、勇猛精進! キグルミオン! 5
「そのまま!」
エキゾチック・ハドロンの射出部を背に、ヒトミは宇宙怪獣と対峙する。
キグルミオンのアクトスーツに宇宙怪獣が襲いかかっていた。牙を剥く宇宙怪獣。その牙を、ヒトミが相手の体を押さえながら右に左にと首を傾けてかわした。
宇宙怪獣の頬は、先に放たれたプラズマのエネルギーでかすかに焼かれていた。その恨みを晴らすつもりか、宇宙怪獣は次々と牙を繰り出してくる。
突き放せば全ての攻撃を避けられそうな状況で、ヒトミはあえて宇宙怪獣の牙に己の身を曝す。
「仲埜! そのままだ!」
「分かってます!」
不意に耳元で再生された板東の声に、ヒトミが首を振りながら応えた。
「エキゾチック・ハドロン! 来てますよね!」
「ああ、狙いやすいからな」
「動き回るなって、言われましたからね!」
「動き回るなとは言ってない。敵の動きを止めておけと言ったんだ」
「一緒ですよ!」
一際大きく開かれた宇宙怪獣の顎。その噛みつきの一撃を、ヒトミが頭を後ろにそらして避けた。
キグルミオンの体はその間もエキゾチック・ハドロンの射出部に流れていく。
「だが、ぶつかるな」
「分かってますって! 来た! 光って来た!」
キグルミオンの全身が、エキゾチック・ハドロンとグルーミオンの反応により内から再び輝き出す。
「バックパックが邪魔だからな。今、後頭部にびしばし照射している」
「ああ! 何か間抜け!」
「贅沢言うな!」
「はいはい!」
キグルミオンの光は更にその強さを増す。
SSS8の外壁はもうすぐそこまで迫って来ていた。そこから突き出たエキゾチック・ハドロンの射出部は、このままでは真っ先にキグルミオンと激突してしまう。
「ミズ・ヒトミ! それより、ぶつかりそうんなんだけど!」
ヒトミの耳元でこちらはサラの悲鳴が再生された。
「分かってます――って!」
ヒトミがサラに応えるのに合わせて、宇宙怪獣の頭突きを喰らわせた。噛みつこうと口先を向けて来た宇宙怪獣に、正面からヒトミは額をぶつける。
「おおっ! 効いてるな!」
頭突きをくらい後ろにのけぞる宇宙怪獣。その様子にヒトミが歓喜の声を上げる。
宇宙怪獣がヒトミから逃れようと身をよじった。だがヒトミは宇宙怪獣の肩辺りをがっしりとつかみ離さない。
「逃がさないわよ! おりゃ!」
ヒトミが更に頭突きを繰り出した。二度もまともに喰らう気はないのか、宇宙怪獣は今度は首を捻ってわずかに頭突きを避ける。
ヒトミの頭突きは正面からは喰らわせることができずに、その側面にかすめるように当たった。
頭突きをかわした宇宙怪獣がヒトミに目を向け直す。
わずかに開いていたその口元が、ヒトミの攻撃をしのいだ自信の表れのような笑みの形になる。
「余裕? でも、次はかわせないわよ!」
ヒトミがキグルミオンのキャラススーツの中で目を光らせた。それと同時にエキゾチック・ハドロンとの反応による発光がその強さを増す。
ヒトミの意思に応えるようにキグルミオンのアクトスーツが、一際まぶしく輝いた。
「プラズマ――」
ヒトミが後頭部を後ろに引いた。宇宙怪獣の身を抱えたままで背中を思い切り後ろにそらす。
如何にも今から頭突きをしますというその動作に、宇宙怪獣が体をつかまれながらも身構えた。
ヒトミの背中にエキゾチック・ハドロンの射出部が近づいて来る。
「キャー! ぶつかるわ!」
ヒトミの耳元で不意にサラの悲鳴が再生された。
「頭突き!」
サラの悲鳴を押し戻す勢いで叫び上げたヒトミ。その絶叫ととともにヒトミの頭が振り下ろされる。
今度もその攻撃を避けようとした宇宙怪獣は、そこから発せられた閃光にとらえられた。
頭突きそのものはかわした宇宙怪獣の固い頭部と太い首元に、プラズマの光が襲いかかる。
それと同時にキグルミオンの背中でバックパックが火を噴いた。
宇宙怪獣が真空中で響くことの無い雄叫びを上げる。
その雄叫びが伝わったのは体を密着させているキグルミオンだけだった。宇宙怪獣の咆哮に合わせて、キグルミオンのグルーミオンの体が震える。
宇宙怪獣の恐竜然とした肌が、肩口から頬にかけてをプラズマの光に焼かれた。
押す一方だった宇宙怪獣の体が逃れようと後ろに身を退く。
ヒトミの背中ではバックパックが最大限に火を噴いていた。
両方が功を奏したのか、キグルミオンの巨体はエキゾチック・ハドロンの射出部の手前でぎりぎり止まる。
「ふう……」
ヒトミがそのことを後ろも振り返ることもなく感じたのか、大きく安堵の息を漏らした。
だがその弛緩した空気も一瞬で払い、
「はっ!」
ヒトミは気合いとともに両ヒザをへその辺りまで引き上げた。それと同時にヒトミは暴れる宇宙怪獣を離す。
宇宙怪獣はもだえながら宇宙に解き放たれた。
ヒザを抱えるような位置まで上げて身を丸めたヒトミが、その姿勢のまま体を傾け宇宙怪獣に足の裏を向けた。
「喰らいなさい! クォーク・グルーオン・プラズマ――」
宇宙怪獣は焼かれた肌を触らんととしてか、その短い腕をばたつかせていた。
その隙だらけの胸元にヒトミは狙いをつけると、
「ドロップ・キック!」
曲げていた両足の裏を全身のバネを使って宇宙怪獣に繰り出した。
改訂 2025.09.16