十三、勇猛精進! キグルミオン! 3
「そりゃ!」
もつれるようにSSS8から離れていくキグルミオンと宇宙怪獣。ヒトミは気合いとともに、宇宙怪獣の身を突き飛ばした。
宇宙怪獣が真空故に伝わらない無言の雄叫びを上げる。それでもその威嚇の雄叫びに反して、宇宙怪獣の体はキグルミオンから勢いよく突き放された。
「どりゃ!」
ヒトミの更なる気合いに、背中のバックパックが応えるように火を噴いた。
キグルミオンの体が噴射に身を任せて減速を始める。
宇宙怪獣は突き飛ばされた勢いを利用して、そのまま旋回を始めた。
徐々に減速し体勢を整えるヒトミに、旋回して勢いのままに次の攻撃態勢をとる宇宙怪獣。二体はSSS8を向こうに真空の宇宙で再び対峙する。
キグルミオンの愛くるしいいつも変わらないプラスチック然としたつぶらな瞳が、宇宙怪獣の凶悪な赤い双眸を迎え撃つように射抜く。
「きなさい! 相手してあげるわ!」
ヒトミが両手を挙げて構える。
無言の突進を仕掛けてくる宇宙怪獣に対して、ヒトミはその体を正面に向けた。
そのヒトミに牙を剥き、宇宙怪獣が鼻先から突っ込んでくる。
「どっせい!」
ヒトミはその攻撃を体ごと受け止めた。構えていた腕でそのアゴを押さえつけ、正面から宇宙怪獣の攻撃を受け止める。
止まりかけていたキグルミオンの体に、旋回してきた宇宙怪獣が激突する。ヒトミは宇宙怪獣の勢いに押されて、今度ももつれるように後ろに飛んでいった。
「この!」
ヒトミは背中のバックパックから推進用の火を噴いて、勢いを押しとどめようとする。
だが勢いは完全に宇宙怪獣にあった。せっかく稼いだSSS8との距離が、見る見ると縮んでいく。
「大人しくしてなさい!」
ヒトミが宇宙怪獣と体を入れ替えるようにして身を反転させた。
それで突進の直線的な勢いを回転運動に変えようとしたようだ。ヒトミは宇宙怪獣の肩辺りをつかむと、己の体ごと横に身を振る。
その勢いで互いにぶつけ合い火花散りそうな視線を軸に、ヒトミと宇宙怪獣は回転を始めた。遠心力に流され、キグルミオンの足と宇宙怪獣のしっぽが外に振れる。
解き放たれた竹とんぼのように、横に長く伸びて回転するキグルミオンと宇宙怪獣。それでSSS8へと向かう勢いが殺され、ヒトミと宇宙怪獣はその場で勢いよく回転する。
その組み合いを嫌ったのか宇宙怪獣が身を激しくよじった。互いの身をつないでいたキグルミオンの手が振りほどかれ、二体は遠心力に弾き飛ばされるように正反対に飛んでいく。
「仲埜! 準備できた! エキゾチック・ハドロンだ!」
それと同時にヒトミの耳元に坂東の声が再生された。
「了解です!」
ヒトミがその言葉に手足を大きく開いた。全身でエキゾチック・ハドロンを受け止めようとしてか、宇宙怪獣を前にしてヒトミは無防備なまでに手足を伸ばす。
宇宙怪獣が今度も旋回を始め、その勢いを生かしたまま進路を変える。宇宙怪獣の双眸が、キグルミオンをとらえながら水平に螺旋を描いた。すぐさまその螺旋は内に絞られ、ヒトミへと向かう進路へ乗る。
エキゾチック・ハドロンを受けその反応で光り始めたキグルミオンに向かって、宇宙怪獣が弧を描いて向かっていく。凶悪な顎から剥き出された牙が、真空中に唾液をまき散らせながらぎらりと光る。
宇宙怪獣が最終的に狙ったのはヒトミの背中。その肩口辺りだった。
視界の死角から迫り来る宇宙怪獣。
「まだまだ……」
ヒトミは静かに止まってエキゾチック・ハドロンに身を曝す。ヒトミは振り返ることもなく、ただただエキゾチック・ハドロンがその身に反応するのに静かに身を任せた。
キグルミオンの体がまぶしいまでの光に包まれる。
閃光すら発し始めたキグルミオンのアクトスーツに、牙を剥いた宇宙怪獣が背中から襲いかかった。
宇宙怪獣の牙がキグルミオンの肩に食い込む。
まさにそう見えた瞬間――
「プラズマ・キック!」
ヒトミが一瞬で身をひるがえし、その攻撃をかわすと右足を蹴り上げた。
右足のつま先からプラズマの閃光が同時に放たれる。
宇宙怪獣がわずかに首を捻った。
ヒトミの右足とその先から放たれたクォーク・グルーオン・プラズマの光は、宇宙怪獣の首筋をわずかにかすめた。
かすかに宇宙怪獣の肌を焼いて、虚空の彼方に消えていくプラズマの光。
ヒトミは繰り出した足の勢いで反転し、宇宙怪獣は迫りきた勢いのままに離れていく。
離れていく宇宙怪獣と消えゆくプラズマの光。
それぞれの光景にめまぐるしく首を振って目をやりながら、
「おしい!」
喜々としてヒトミは身を捻って回転させ次なる攻撃に構え直した。
改訂 2025.09.16




