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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十三、勇猛精進! キグルミオン!
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十三、勇猛精進! キグルミオン! 2

「とりゃっ!」

 ヒトミの蹴りが宇宙怪獣の脇腹にめり込んだ。

 だが勢い自体は宇宙怪獣の方に分があったようだ。ヒトミは宇宙怪獣ともつれるように背中から後ろに飛んでいく。

「ぬぬぬ……」

 ヒトミの背中ですぐさまバックパックがノズルから火を噴いた。

 それでもヒトミの体は勢いに負けて背後のSSS8の壁面に向けて突き進んでいく。

「おいおい!」

 そのヒトミの耳元で焦ってからしたイワンの声が再生される。

 SSS8から伸び出たロボットアーム。その先端で救助作業にあたるミッションスペシャリスト達。宇宙服の集団がぎょっと振り返る。

 ヒトミはSTVの救助作業の現場に背中から向かっていってしまっていた。

 見る見るとキグルミオンと宇宙怪獣の巨体がSTVの救助現場に迫り来る。

「分かってます! どりゃ!」

 ヒトミは蹴り入れたままの右足をぐんと伸ばした。

 キグルミオンと宇宙怪獣の体が進行方向に帯しい上下にその勢いを分散する形で分かれた。だがそれはぎりぎり選択とタイミングだったようだ。

「分かってるのか! 本当に!」

 イワンの悲鳴めいた抗議の声がそのことを如実に物語っていた。

 宇宙怪獣が巨体がSSS8の脇をかすめるように飛んでいく。

 キグルミオンのそれはノズル全開でSSS8に向かって飛んでくる。キグルミオンの巨体が迫るに連れて、ノズルの余波がロボットアーム先端部分を襲う。

 徐々に噴射を弱めながらも近づいていくるキグルミオンの背中。実際その余波に吹きつけられ、ユカリスキーとリンゴスキーが命綱につながれたままふわふわと飛んでいきそうになった。

 救出作業にあたる宇宙飛行士達が手を止めバイザーを一斉にそちらに向ける。バイザーに写り込むキグルミオンの背中がぐんぐんと大きくなっていった。

 そして皆のバイザーいっぱいにキグルミオンの背中が大写しになったその時、

「どっせい!」

 イワン達が群がるSTVの手前でその体がぎりぎりで止まった。

「着ぐるみ! 当たりそうだったぞ!」

「スイマセンね! 今どきますんで!」

「待て! そのままバックパックを噴かすなよ! こっちが直撃を喰らうぞ!」

「分かってますって!」

 ヒトミはイワンに応えながら体を素早く体を捻る。それでSTVを横に見る体勢になると今度は腰を軸に後ろに倒れ込むように体を回転させる。

 その間に吹き飛ばされそうになっていた二体のヌイグルミオンがわざとらしくも手足をばたつかせて元の場所に戻ろうとしていた。

「仲埜! 宇宙怪獣の方が早い! もう一度来るぞ!」

 ヒトミの耳元に板東の緊迫した声が再生される。

「く……」

 ヒトミが顔を見上げる。

 牙を剥く宇宙怪獣がそこにはいた。

 SSS8をかすめるように飛んでいった宇宙怪獣が、その勢いのままに向きを変えていたようだ。宇宙怪獣はSSS8から一旦離れていき、そのまま反転。勢いそのままに弧を描いて進行方向を変え、最後は真っ直ぐヒトミに向かって伸びてくる。

「この!」

 避けられないと見たのかヒトミは両手を広げて宇宙怪獣の突進を受け止めた。

 宇宙怪獣の巨体がSTVの脇をかすめ、ヒトミもろともその向こうに飛んでいく。

「うおおっ!」

 その状況にイワンの驚きの声がヒトミの耳元に再生される。

 宇宙怪獣が目と鼻の先をかすめていく光景は、軍属のミッションスペシャリストにすら驚愕の声を上げさせたようだ。

「イワンさん! 皆さん、無事ですか?」

 宇宙怪獣に押し切られながらもヒトミが声の限りイワンに呼びかける。

 ヒトミと宇宙怪獣は早くもSSS8の円の内側から宇宙に飛び出そうとしていた。

「無事だ! なんとかな!」

 宇宙怪獣はSTVもその周囲の宇宙飛行士にはかすらなかったようだ。STVに取りつく宇宙飛行士達は、皆が一様に急速に離れていくキグルミオンを見送っていた。

 声も聞こえなければバイザー越しで中の表情も見えない。だがそのおっかなびっくりの様子で覗き込むように見送る様は、宇宙飛行士達の恐怖と驚愕を端的に物語っていた。

「オッケーです!」

 イワンの返事にヒトミが宇宙怪獣の肩を掴み返して応える。

 キグルミオンの巨体がSSS8を離れていく。

「真空中で幸いした! 地上なら、空気を伝う衝撃波で、皆吹き飛んでいた!」

 イワンが周囲を見回す。宇宙飛行士達はイワンに同意するとそれぞれにうなづいてみせた。

 それでもまるで吹き飛ばされたと言わんばかりにユカリスキーとリンゴスキーはその場でくるくると回転していた。

「縫いぐるみどもが、衝撃波にやられてるようだが……何故だ……真空中だぞ……」

 イワンの当惑の声がヒトミの耳元に再生される。何故ユカリスキー達が楽しげに回転しているのか本当に分からないようだ。イワンは息まで呑んでヒトミに訊いてきた。

「放っといて下さい! いつも通りですから!」

「そ……そうか……」

「そうです! よし……だいぶ距離がとれた……」

 宇宙怪獣の体越しに見えるSSS8が徐々に小さくなっいく。

「仲埜! でかした! だがあまり距離をとるな! 何があるか分からん!」

 板東の声がヒトミの耳元で再生される。

「分かってます!」

 ヒトミは板東に応えると宇宙怪獣におもてを向ける。

「さあ、覚悟なさい……」

 ヒトミのその言葉に答えたのか否か、宇宙怪獣は牙を剥き赤い双眸を更に輝かせた。

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