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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十二、一意専心! キグルミオン!
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十二、一意専心! キグルミオン! 11

「ヒトミちゃん! その調子! 一応それで順調にいけば、大雑把に計算すると、約四十分で回転が止まるわ!」

 止まることなく足を動かし、今にも倒れそうになりながら回転を止めようとロープを握るヒトミ。その耳元に久遠の声が再生された。

「久遠さん! むむ、でも時間が全然足りないですね!」

 ヒトミ耳元で再生された久遠に(こた)える。その間もヒトミの体は何度もバランスを崩しながら足を()り出していた。高速回転するSTVにヒトミは蹴り返しながら食らいつく足踏みを、宇宙空間の無重力の中でロープ一つでやってみせている。

「そうね! それでも随分と時間の短縮よ! そのままお願いできる!」

「はい!」

「仲埜!」

「隊長! 勝手やってます! おっと!」

 続けて再生された板東の声に、ヒトミはやはりバランスを崩しながら応える。

「今は()めん! やり始めたらなら、最後までやれ!」

「はい!」

「だが、後十数分程しか猶予(ゆうよ)はない! アクトスーツへの移動が優先だ! 分かってるな!」

「分かってます! これをぎりぎりまでやって! 後は宇宙怪獣をちゃっちゃっと倒しちゃいましょう!」

 ヒトミはやはり足を止めずに応える。

「オッケー。その意気よ、ヒトミちゃん! こっちは遠心力から身を守る為に、今狭い船内で中央で寄り添ってるの。あんまり気分のいい体勢じゃないから、なるべく短くしてもらえるとありがたいわ」

「はい! 任せて下さい!」

「ヒトミ……楽しそ……」

「いや、必死だって! おっと!」

 不意に再生された美佳の声に、ヒトミはバランスを大きく崩しながら応える。

「むむ……そのわざとらしいタイミングでのこけ方が、楽しんでいる動かぬ証拠……」

「もう! こっちは必死だって!」

「ぬぬ……おのれ……ダレルスキー……ヒトミにだけ楽しまれては、外で見守っているユカリスキーとリンゴスキーに申し訳が立たない……こっちも思う存分、両手足を振り回そう……」

「いたた……美佳ちゃん! ナマケモノの手がヘルメットに当たるんだけど! ああ、足まで! ちょっと折り(ただ)んでおいて! ヒトミちゃんに対抗しないで!」

 美佳の言葉の最後に久遠の悲鳴めいた声がかぶさる。

「はは! そっちも楽しそう――って! イワンさん?」

 音声越しで聞こえて来る緊急時の緊迫感のない声。その声に思わずにか笑い声を上げるヒトミの視界がぬっと(かげ)った。

「……」

 ヒトミが見上げればそこには重厚な宇宙服に身を固めたイワンが、ヘルメットのバイザー越しに(きび)しい目を向けて来ていた。

 イワンはこちらに浮いて来て着地する寸前だったようだ。

 その手に持っていたロープでその場に一旦停止すると、

「貴様……救出プランを無視して……」

 イワンはバイザー越しでも分かる血走った目を向けて来る。

「だって! どう考えても、時間が足りないじゃないですか! この方法でも足りなさそうですけど!」

「それで貴様は……宇宙怪獣との戦闘前に、命がけで不格好なトレッドミルか?」

「いけませんか! 自分にできることを、不格好でも懸命にやってるのが? 全力尽くして何が悪いんですか!」

「『全力』? それは貴様の力でではない。宇宙服ではない着ぐるみだからできる芸当だ」

「久遠さんが作ってくれて! 美佳がヌイグルミオンと手入れしてくれて! 隊長が(たく)してくれてるんです! これが私の力です!」

「ふん……」

 イワンはヒトミに鼻で応えると、宇宙服の制御スラスターを()かせた。一度はヒトミの目の前で止まったイワンの体が、そのスラスターの噴射(ふんしゃ)で反転する。

 そしてイワンの体はゆっくりと回転するSTVに向かって降りて来た。

「えっ? イワンさん! ダメですよ! 自分で言ったじゃないです? これはグルーオンを(まと)ってる着ぐるみのキグルミオンだからできるんで――」

()めるな! うおおっ!」

 イワンはSTVに着地するや(いな)や、そのSTVの上で二、三歩たたらを踏むと大きく弾き飛ばされる。

「イワンさん!」

「舐めるなと――言ってる!」

 イワンは弾き飛んだ反動で暴れる体を、何とかロープで耐えさせる。そしてまだ激しく()れる体で、腰を折るや慎重に足をSTVに向けた。

 ヒトミの横でイワンがもう一度STVに着地する。イワンは一回目から学んだのか、今度はひとまず(はじ)き飛ばされずに、その場に足を送りながら()みとどまった。

「ぐ……」

 それでも重厚な宇宙服では、着ぐるみのように自在にその手足を動かせない。

 イワンがロープを持つ手を必死につかみながら、足を何度も(はじ)き返されながらも、かかとでSTVに食らいついた。

「く……この……」

「イワンさん!」

「自分の心配をしてろ! 少なくとも、先の計算では二十分以上! このSTVとSSS8を守りながら戦うことになるんだぞ!」

 ヒトミ以上に不格好に()けながらイワンが声を(あら)げる。

「はい!」

「そうだ! 宇宙怪獣か、貴様のアクトスーツ! どちらかでも少しでもSSS8に当たってみろ! 俺もSTVも弾き飛ばされかねん!」

「分かってますよ!」

「仲埜、イワン大佐。板東だ。後七分後に宇宙怪獣迎撃の為、キグルミオンのアクトスーツを射出(しゃしゅつ)する。仲埜にはその時に、その場を離れてももらう」

「隊長!」

 ヒトミの耳元で板東の声が再生された。

「仲埜。自分でやりだしたことだ。連戦になるが、そのままぎりぎりまで続けろ」

「はい!」

「よし。イワン大佐。今度は負けませんよ、仲埜は」

 板東の声は音声だけでも分かる自信に満ちた笑い声が混じっていた。

「ふん! 言ってくれる!」

 その声にイワンがこちらも自信満々に応えると、

「うおおおおおおおっ!」

 ヒトミが負けじと雄叫(おたけ)びを上げた。

改訂 2025.09.13

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