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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十二、一意専心! キグルミオン!
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十二、一意専心! キグルミオン! 9

「『ハッブル7改』! まさか! 宇宙怪獣来るんですか? こんな時に!」

 振り下ろされるイワンの右手。その手元のロープの先につけられたフックが回転するSTVの一部に触れて弾かれる。その瞬間に合わせたようにヒトミが驚いた声を上げた。

 フックは一瞬弾かれ飛ばされそうになるが、実際は足場らしきものに引っかかりその場で暴れながらすぐに回転の向こうに消えていく。

 その暴れるフックに続くのは長く伸びるロープだ。

「抑えろ!」

 フックを叩き付けた反動でイワンの体が浮かび上がった。

「あっ! はい!」

 ヒトミがそのイワンの体を慌てて掴んだ。ヒトミの体自身がイワンとともに浮かび上がりそうになる。

 そのヒトミの体から伸びていた命綱に、今度はユカリスキーとリンゴスキーが飛びついた。ピント張られていた二体のヌイグルミオンの命綱が、二人の体をその場に押しとどめる。

「その『まさか』だ、仲埜。宇宙怪獣が今現在このSSS8に接近中だ。今対応の協議を始めている」

 イワンの体を抑えるヒトミのキャラスーツの頭部の中で板東の冷静な声が再生された。

「私戻るんですか? でも……これ以上は、作業早められないんですよね?」

 ヒトミがイワンの体越しにその向こうを覗き込む。

 フックが引っかかった機体はそれでも回転を止めない。そしてフックから伸びるロープが早くも機体に巻き付き始めていた。その代わりに機体の回転のぶれがわずかに落ちて来ている。

「そうだ。ウインチでぎりぎり壊れない程度に、ロープを繰り出すのを抑えている。これ以上ウインチ側で抵抗をかけたら、フックか足場の方が壊れる」

 イワンがSTVに視線を奪われたままヒトミに振り返らずに答える。イワンはヒトミの手を振りほどくと背中のバックパックのノズルから火を噴かせた。

「板東大尉! 状況は?」

 一度は離れたイワンの体がまた不安定な回転を続けるSTVへと近づく。イワンは所定の位置に戻りながら板東に訊いた。

 その背後でユカリスキーとリンゴスキーが身を翻した。二体はSSS8へと戻っていく。

「宇宙怪獣の標的はここ――SSS8だ。弧を描きながらこちらに向かって来ている。襲撃に対して、仲埜が戻ってる時間はない。キグルミオンのアクトスーツの射出準備を始めさせた。宇宙空間でドッキングしてもらう。いいな、仲埜?」

「はい!」

「仲埜の代わりの宇宙飛行士は、今急ぎ準備してもらっている」

「ぎりぎり間に合わんだろう。俺以外は皆ノロマだからな。こいつが宇宙怪獣と戦っている間、俺たちは宇宙怪獣に身を曝しながら、救助活動という訳だな?」

「そうだな、イワン大佐。頼めるか?」

「ふん。覚悟はできている」

 無愛想な口調で答えたイワンの横に小さな影が近づいた。それは二つの子供のような大きさの宇宙服だった。

 戻って来たユカリスキーとリンゴスキーがその手にそれぞれフックを持っていた。フックはそれぞれロープにつながり、やはりその先はSSS8につながっている。

 イワンはユカリスキーが差し出したフックをこれも愛想もなく事務的に受け取る。

「そんな! ダメですよ! 危険過ぎます!」

「危険は覚悟の上だ。危険を冒して、貴様も戦うのだろう。同じだ」

「でも! 宇宙怪獣は強いんですよ! 何がどうなるか! 分かったもんじゃないんですよ!」

「サラ船長……次の指示を……」

 ヒトミに答えずにイワンがフックを構え直す。

 そのイワンの横で先に引っ掛けたロープが跳ねた。ロープの長さの限界に来たらしい。ウインチから伸び出ていたロープが最後は暴れながらSTVの機体に巻きついていく。

「オッケー、イワン大佐。しばらくそのまま待機よ。それとミズ・ヒトミ。あなたはあなたで、宇宙怪獣と戦う心の準備を始めなさい。宇宙怪獣に少しでも遅れをとると、中の桐山博士達も、外のイワン大佐達も危ないわ。じゃ、カウントダウン。十、九――」

 サラの声がヒトミとイワンの耳元で再生される。

「何とか……作業は早まらないんですか?」

「無理はできん」

 心配げに手元を覗き込んで来るヒトミにイワンが素っ気なく答えた。

「でも、無茶はする気ですよね?」

「ふん」

 イワンが不機嫌そうに鼻から息を抜きながらフックを振り下ろした。

 今度もフックは足場に引っかかり、その反動でイワンの体が飛ばされた。

 ヒトミがそのイワンの体を支え、ユカリスキー達がヒトミのロープを支える。

 新たなロープが機体に巻きつきその回転速度と、ぶれる独楽の角度を抑えていく。

「この作業を続ける以外に、この機体の回転と暴れっぷりを抑える術がない。地道にやるしかない」

「く……何か、他に手は……」

 するすると機体に巻きついていくロープ。それと回転するSTVを見やりながらヒトミが拳を握りしめる。

「ん?」

 そんなヒトミにリンゴスキーが寄り添って来た。フックを抱えるように持ったウサギの縫いぐるみは、如何にも心配と言いたげに無言でヒトミを見上げる。

「リンゴスキー……ゴメンね……心配だよね……」

 ヒトミがリンゴスキーを見下ろす。

 そしてヒトミはリンゴスキーの手元に目を奪われると、

「そうだ!」

 何かを思いついたのかキャラスーツの頭部を勢いよく跳ね上げて顔を上げた。

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