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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十一、確固不抜! キグルミオン!
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十一、確固不抜! キグルミオン! 12

「まあまあ! よく来たわね! よく来たわね! こんな高高度宇宙まで! もちろん、歓迎よ! 私の言葉通じてる?」

 ヒトミ達三人は船長室とロシア語と英語で書かれたドアをくぐるや、機械再生された歓迎の言葉に迎えられた。

「ああ! その前にお礼ね! 乗組員全員を代表して、助けてくれたことにお礼言わなきゃね! ありがとう! ああ、これぐらいはフランス語とか、英語でも通じるわよね! ちょっと待ってね! 直接お礼は伝えたいの! えっと――」

 ヒトミ達が入って来るやまくしたてるように話しかけて来た女性。この女性が船長らしい。女性は年齢は四十に届く前といったところだった。軽くウェーブのかかった栗色の髪と、琥珀色(こはくいろ)に光る肌が、色々な国の血を受け継いでいることを一目で分からせた。

 女性は手に持っていた情報端末で何やら操作すると、

「Merci! Thank you!」

 軽くウィンクをしながら特にヒトミに微笑(ほほえ)みかける。

「は、はあ……」

 船長室に入るや(いな)や、まくしたてられたヒトミはどう(こた)えていいか分からなかったようだ。

 坂東と鴻池はまくしたてる女性を気にした様子も見せずに奥へと足を蹴る。

 その後ろに一人取り残されヒトミは(ほう)けたように口を開く。

「Gluon! Fermion! Dark Matter! Oh! Yeah! Fantastic! Amazing! You're a real Ultra Hero! Yes, physical hero! 」

 そんなヒトミの様子を気にした様子も見せず、女性は平手を胸の前で組み合わせてまくしたてる。

「は、はい?」

「船長。翻訳機を入れ直してやってくれ。仲埜は拳で語るのは得意だが、言語はからっきしらしい」

 坂東が口を開くとどこからともなく、フランス語らしき言語に翻訳されて音声が再生された。

 坂東は翻訳機らしきものを持っていない。それでもまるで映画の吹き替えでも見るかのように、坂東の口元から流暢(りゅうちょう)なフランス語が流れ出た。口元の形と言葉が合わない違和感も吹き替えそのものだった。

「あら、そう?」

 坂東の言葉に女性がもう一度情報端末に指を走らせた。こちらも言葉にしている言語と、聞こえて来る言語が違うようだ。口の動きと実際に耳に聞こえて来る声が合っていない。

 それでいて実際に女性が話しているように、その口元から声が聞こえて来る。そして坂東は坂東の、女性は女性の言葉らしい声色で皆の耳に届いていた。

「どうなってるんですか? 隊長がフランス語をあんなに流暢(りゅうちょう)に話すなんて。あ、あれ?」

 ヒトミが近づく為に床を蹴った。そして二人の男に並ぶや坂東の口元と、周りの人間を答えを求めるようにきょろきょろと見回す。そして最後は自身の言葉に驚いて口元に手をやる。

 ヒトミの言葉も出る端から翻訳されていき、まるでその本人の口から出たように響いていく。

「ああ、人が集まる部屋には、壁にスピーカーが埋め込んであってね。そこから翻訳した言葉が出て来るんだ。指向性を持たせてあるし、スピーカーも複数あるからね。まるで本人が話しているように、同時通訳してくれるんだよ。地上の国際空港の待合室とかにも、普通にある技術だよ」

 答えた鴻池の言葉も次々と翻訳された。やはり二言語で同時にその口元から言葉が聞こえて来る。

「おお!」

 ヒトミがその様子に目を輝かせて感嘆の声を漏らした。その感嘆の声すらも同時に翻訳された。

「ほおおぉぉぉえええぇぇぇっ!」

 ヒトミがその様子に更に奇声を発する。さすがに翻訳不能だったのか、そのままの発音が同時に再生された。

「ああ、ゴメンなさいね! ネイティブ同士は、同時通訳はややこしいだけよね! ちょっと待ってね! 今調整するから!」

 女性がもう一度端末に手を伸ばす。

「ああ、船長さんにそんなことまでさせて、申し訳ないね」

「あっ、普通だ! 同時通訳が追ってこない!」

 普通に戻った鴻池の言葉にヒトミが反応するが、

(すご)いでしょ?」

 船長と呼ばれた女性には翻訳されて届いたようだ。実際ヒトミ達には翻訳された言葉が届く。

「どうなってるんですか、おやっさんさん?」

「ああ。指向性を利用してね、誰から誰宛は何語に翻訳。同じネイティブ同士は通訳なし。ってな感じで選べるんだ。重宝(ちょうほう)するよ」

「へぇ……」

「そういう訳だ、仲埜。得意のロマンシュ語は封印してくれていいぞ」

「ぶーぶー。隊長、しつこいです。てか、さっきのロシア人の人も、これを使えば良かったのに」

 ヒトミが思い出す為にか背後のドアを振り返ると、

「……」

 その言葉に船長のまぶたがぴくりと痙攣(けいれん)した。そしてその顔にヒトミ達が入って来てから常に浮かべていた笑顔が(こお)りつく。

「廊下には張り(めぐ)らせていない。医務室はプライバシーの問題から、基本切ってる」

「そうなんですか?」

 坂東の言葉にヒトミが顔を正面に戻すと、

「そうよ! さすがに廊下までは予算が回らないし! 医務室は、誰彼構わず生理不順の話とか聞かれたくないでしょ! その配慮よ!」

 すぐに笑顔を取り戻した船長が答えた。

「は、はあ……」

 船長の言葉にヒトミが真っ赤になってうつむく。

「船長。そんな話より」

「ああ、そうね。鴻池博士。ミズ・ヒトミ!」

「はい!」

 急に真顔でこちらに向かれヒトミが背中を伸ばして応えると、


「宇宙――救ってくれるわよね?」


 船長はその真顔を一瞬で崩してこともなげにそう()いて来た。

改訂 2025.09.09

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