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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十一、確固不抜! キグルミオン!
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十一、確固不抜! キグルミオン! 9

「隊長! チョー疲れました! 寝台特急で、休みましょう!」

 自身が乗ってきた電車を見送り、ヒトミはその場で元気よく飛び()ねる。本人は地上と同じように何度もぴょんぴょんと跳ねたつもりのようだが、ヒトミは最初の一蹴(ひとけ)りで大きく体が浮いていく。

「思い切り飛び跳ねとるじゃないか。どこが疲れてるって顔だ」

 そんなヒトミに坂東は(あき)れたように顔だけ振り返らせる。

「はは。確かに、元気だね」

 鴻池も笑みを浮かべてこちらは体ごと振り返った。

「ええ! てか、乗りたい! 宇宙の寝台特急なんて、ロマンチックじゃないですか!」

「何を年頃の女子みたいなこと言ってる」

「『年頃の女子』ですよ! 何言ってくれちゃってるんですか! 宇宙に浮かぶ列車の中で、星空を(なが)めながらうっとりとしたいお年頃女子です!」

「SSS8の寝台特急に、窓なんかない。さっきお年頃らしくない、野生動物みたいな動体視力で見抜いていただろ」

「ああ! (ひど)い言いよう! 乙女ですよ! お年頃ですよ! 花も()じらう女子高生ですよ! もうちょっと、かわいがりましょうよ!」

「分かった、分かった。ほら、いくぞ」

 坂東が相手にしていられないと言わんばかりに前を向き直る。(おのれ)(あき)れ具合を表さんとか、坂東は大きく足を踏み込んで駅の出口へと向かった。坂東は宇宙用のブーツでも、やはり床を蹴る度にカチャカチャと拍車(はくしゃ)が鳴るような音がした。

「はは、厳しいね。坂東くん」

 鴻池が笑いながら坂東の後に続いた。

「ぶーぶー」

 ヒトミが口を不平に鳴らしながら、そんな坂東達の後ろを追いかけ床を蹴った。

「乙女じゃなかったのか? いつからブタになった」

「いいですよーだ。この調子なら、着ぐるみ無しでいつでもブタになり切れそうです」

 唇を(とが)らせて坂東達の後に続くヒトミ。そんな大人と子供そのままような様子の三人連れに、駅のプラットフォームに居合わせた乗客達がくすくすと笑いながら見送った。

「まったく。ただでさえ、目立つんだぞ、仲埜。少しは恥ずかしくないようにしてくれ」

「着ぐるみヒーローは、目立ってナンボですよ」

 坂東がプラットフォームの出口から通路のドアを背をかがめてくぐり、ヒトミがその後ろに唇を(とが)らせたまま続いた。

「それに目立つのは、隊長の方が一枚上でしょ?」

 実際ヒトミの言葉通りなのか、通路に出たところすぐで不意にすれ違った女性がぎょっと坂東を見上げる。

「軍隊出の屈強な宇宙飛行士も、結構ここには居るからな。俺ぐらいのガタイは普通だ」

「ガタイだけなら、そうでしょうけど。そんな愛想のない顔してるから、皆にぎょっとされるんですよ」

「別に、構わん」

「てか、皆さん(あわ)ただしいですね?」

 ヒトミが次々とすれ違う職員達に目を向ける。皆がヒトミ達の様子を気にしたように横目で見て、それでいてどこかにいそいそと消えていく。ヒトミの言葉通り見るからに慌ただしい。

「宇宙怪獣の襲撃で、皆一応緊急避難用の帰還用宇宙船に移動していたからね。仲埜くんがやっつけてくれて、皆やれやれと慌てて元の職場に戻ったり、状況を確認しようとしてるのさ」

「へぇ」

「平時に来てたら、皆に取り囲まれてたと思うよ。ひとかどの科学者やエンジニアが多いからね。キグルミオンのことを色々と()きたいだろうし。ああ、もちろん皆本当は、お礼を言いに寄りたいのを我慢してるんだよ。何と言ってもまだ油断できないしね」

「ふーん」

 ヒトミが生返事(なまへんじ)を返しながら、一人のエンジニアらしき上下のつなぎを着た男性とすれ違う。根が陽気な性格なのか、その男性はヒトミにウィンクを投げて寄越して通り過ぎる。

「隊長、ほら! 今ウィンクされましたよ! やっぱり私もお年頃ですよ!」

「そうか」

「ああ! めちゃくちゃ気がない返事! 部下に悪い虫がつかないか、心配じゃないんですか!」

「それは給料に入ってないな」

「何か、ムカつく!」

「そうか? ほら、着いたぞ。あそこだ」

 坂東が前方を指差した。だが(せま)い通路の両側に同じようなドアが並び、坂東が具体的にどこを指差したのか明確には分からなかった。

「何ですか?」

「リニアに乗る前に言っておいただろ? ここの責任者の部屋だ。挨拶(あいさつ)しておく」

「うーん。だったら、キャラスーツでお会いしたかったです」

「はは、仲埜くん。グルーミオンのキャラスーツでここら辺を歩いてたら、それこそそこら中から科学者が(むら)がって来るよ。それに……」

 鴻池が話に割って入りながら途中で言いよどむ。

「『それに?』 何ですか、おやっさんさん?」

「それにね。キグルミオンを(ただ)の兵器だと見る向きもあってね」

 鴻池がその(みだ)れた髪を乱暴に()いた。

「その通りだ」

 坂東が鴻池に同意しながら、通路の一角のドアの前で止まった。ドアの周りにつけられたポールにつかまり、坂東が(おのれ)の巨体を右手一本で止めてみせる。そして床への軽い一蹴(ひとけ)りで、ドアの前を流れていきそうになった体を引き止めた。

 鴻池が両手でポールに掴まり体をドアの前に引きとどめた。坂東のように軽々とはいかず、両手の手に目一杯力を入れて(おのれ)の体を停止させる。

「そうなんですか?」

 ヒトミは(かん)がいいのか、最後の一蹴(ひとけ)りでちょうどドアの前に降り立った。

「そうだ。ヌイグルミオンすら、問題視する連中も居る」

「ああ、だから先に部屋に行かせてるんですね」

 ヒトミがいつもならまとわりつくであろうヌイグルミの姿を探して、(おのれ)の腰辺りを見回した。そこにはいつものボタンの目をしたヌイグルミ達は一体も居なかった。

「そうだ。だが、仲埜。今はお前の方だ」

 坂東がドアの一角のスイッチを押した。インターフォンだったらしい。応答可の状態を示すランプが同時に光った。

「はい? 何ですか、隊長」

「たとえ敵意を向けて来る人間が居たとしても――」

 坂東の前でドアが軽く音を立てて開いた。

 大男の影がその向こうに現れる。

「……」

 開いたドアの向こうに立っていたのは、坂東と変わらない程の体躯(たいく)で胸を張る屈強な胸板をした男性。

 ()るような――そう、氷の矢でも()ったような視線を男はヒトミに向けていた。

「な……」

 ヒトミが思わずにか息を()むと、

「決して相手にするな」

 坂東はすっと体を寄せヒトミと男の間に体を入れながら続けた。

改訂 2025.09.08

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