表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十、天衣無縫! キグルミオン!
149/445

十 天衣無縫! キグルミオン! 15

「キグルミオンのアクトスーツを構成する〝グルーミオン〟と出会ったエキゾチック・ハドロン……『フェルミオン』化した『グルーオン』と衝突(しょうとつ)したそのエキゾチック・ハドロンは、その余剰(よじょう)クォークをグルーミオンに(うば)われプラズマ化する……プラズマは打ち出すものと思い込みがちだが……いやはや……」

 坂東におやっさんと呼ばれていた男は感心したようにつぶやく。男はスペース・スパイラル・スプリング8の中で微動(びどう)だにせずにモニタに見入っていた。

 モニタに吸い付いたように離れない男の視線。その男の瞳はモニタの中で光が発せられる度に、その光を受けて(かがや)く。男はもはや体を動かすことも忘れたと思えれる程、その光の輝き一つ一つに瞳を光らせていた。

「三十一、三十……二十九。二十八、二十七……」

 坂東は男の隣で数を数えていた。それはモニタがクォーク・グルーオン・プラズマの光に輝く数であり、一体一体と宇宙怪獣が倒されていく数だった。宇宙怪獣はモニタが閃光(せんこう)を発する度に弾け飛んでいく。そして頭部や首筋を破壊されるや、そのプラズマに焼かれた傷口を見せてただただ宇宙の向こうに(ただよ)っていった。

 また一つモニタを閃光が()めた。

 坂東も男と同じように目を輝かせるが、こちらは純粋にキグルミオンの力を見極める為に目を光らせているようだ。坂東はモニタの中のキグルミオンの姿をその拳や蹴りが、繰り出される度にそこに素早く視線を動かして鋭い視線を送る。

 その後ろではユカリスキーとリンゴスキーが、宇宙の無重力に身を任せて何やらふざけ合っていた。

 どうやら宇宙怪獣を次々と打ち倒すキグルミオンの真似をしているらしい。ユカリスキーがわざとらしいまでに両手を挙げてリンゴスキーに襲いかかろうとし、そのユカリスキーの顔やお腹を勇ましい動きでリンゴスキーの拳や蹴りが打つ。

 ユカリスキーはその度に壁まで飛んでいき、リンゴスキーはその場でくるくると回る。ユカリスキーは壁まで力をなくしたように四肢を弛緩(しかん)させて飛んでいくと、壁に当たるや新しい宇宙怪獣としてまた壁を蹴ってリンゴスキーに襲いかかる。

 リンゴスキーはその間くるくると回りながらあちこちにポーズをとっていた。

「クォーク・グルーオン・プラズマの全エネルギーを一気に放出せず、その拳やつま先から必要な分だけ放出する。結果通常の攻撃の簡易さを持ちながら、威力の範囲は(せま)いながらもそのまま……すごいね、君の教え子は……」

 男は坂東にようやく振り返る。

「別に。特に教えた覚えもないんですがね。着ぐるみに入っていない時のあいつは、どこから見ても普通の女子高生ですよ。まあ、着ぐるみに入っていないところを見るのは、かなりレアですがね」

 坂東はヒトミの動きを注視したまま(こた)える。それでも少しは自慢なのか鋭いまでの視線がやや(ゆる)んだ。その坂東の瞳を更なる光が()める。

「二十一! 仲埜! いつまでも同じ調子で倒せるとは限らんぞ!」

 坂東はその新たな光に照らされながらヘッドセットに向かって声を張り上げる。

「分かってますって! でも、いい感じですよ! 本物の着ぐるみヒーローみたいです!」

 更なる閃光を発してプラズマの攻撃を続けるヒトミの声が坂東達の耳元で再生された。

「油断するな! 特撮とは違うぞ!」

「はい!」

「でも、必殺技の名前は、何だか偽物くさい……」

 タイムラグのせいで美佳の声が遅れて届けられた。

「ええっ、そんな!」

「……全部、スーパー・プラズマ・何とか……どっかで聞いたような名前……」

「ぶーっ! 必殺技の名前は、ぎりぎりまで考えたのに!」

「確かにぎりぎりだな、仲埜……」

「ぎりぎりだろうね……」

 SSS8の男二人が真剣にうなづき、

「……ぎりぎりね……」

「……うん、ぎりぎり……」

 タイムラグにめげもせずに音声だけで久遠と美佳がつぶやいた。

 坂東達の背中では、二体のヌイグルミオンが寄り()い、わざとらしく震えながら何かに怯えるように周囲を見回していた。

「みんな、(ひど)い! でも! いい感じ! スーパー・プラズマ・チョップ!」

 坂東達の瞳を新たな閃光で輝かせながら、モニタの中のヒトミは今度は手刀の方に伸ばした手を宇宙怪獣の首元に叩き込んだ。

 だがその様子にようやく劣勢(れっせい)を認めたのか、宇宙怪獣がそれ以上の攻撃の手を止めた。

 宇宙怪獣は上下左右前後をそれぞれの軌道と距離とで、キグルミオンの周りを警戒するように回り始める。

「後、十九……最後まで簡単にはやらせてはくれないな……」

 坂東はその宇宙怪獣の不気味に光る一対の赤い目を見てつぶやいた。

改訂 2025.09.04

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ