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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十、天衣無縫! キグルミオン!
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十 天衣無縫! キグルミオン! 14

 キグルミオンの全身がエキゾチック・ハドロンの照射(しょうしゃ)を受けて光り始める。

 宇宙怪獣が警戒するように一斉にその身を反転させた。

「ふふん! 怖がってるわね! でも、()らいなさい! クォーク・グルーオン――」

 距離をとり周囲を回り始めた宇宙怪獣の()れに。それらにヒトミがキグルミオンのつぶらな瞳を向けた。ヒトミはその光る右手を後ろに弓を引くように引いた。SSS8を背にしたヒトミが宇宙怪獣の群れの一角にプラズマを放たんと身構える。

「仲埜! 早すぎる!」

 その様子にヒトミの着るキャラスーツの頭部で坂東の(あわ)てたような声が再生された。

「分かってますって!」

「何がだ! まだ半分も、エキゾチック・ハドロンが反応してないぞ!」

「いきます! プラズマ!」

 坂東の怒号と化した音声に、キャラスーツの中で軽く顔を(かたむ)けながらヒトミは右手を突き出した。

 キグルミオンの右手の先端から閃光(せんこう)(またた)く。それは落雷の様なじくざぐの軌道(きどう)を描きながら宇宙怪獣に襲いかかる。

 だが既に二度の攻撃を受けていた宇宙怪獣はその多くが(すで)に回避に動いていた。ヒトミが右手を構えた時点でその射線上から身をひるがえす。宇宙怪獣の一対の目の光があるものは加速し、あるものは反転してその場から逃れる。

 ヒトミの放ったクォーク・グルーオン・プラズマは、ぽっかりと空いた群れの穴から宇宙の向こうに消えてしまう。

 坂東に『早すぎる』と言われた攻撃は、確かに全ての力を放たなかったようだ。撃ち出しきれなかったエネルギー分の光がキグルミオンの全身で残り火のように淡く輝いていた。

「言わんこっちゃない! 威力も弱ければ、狙いもあまあまだ!」

「『狙い』は、これからですよ……」

 坂東の音声による叱責(しっせき)にヒトミがキャラスーツの中で(こた)えた。(あわ)い光はヒトミのその顔もほんのりと照らす。そのかすかな光が照らしたヒトミの顔は、どこか自信にあふれているように(ほほ)紅潮(こうちょう)していた。

 宇宙怪獣はヒトミの攻撃を()けるや、その(すき)()かんとか今度はキグルミオンに向かって身を一斉に翻す。

 再び群れをなしてヒトミに襲いかかる宇宙怪獣。やはり牙を剥き、爪を突きつけて突進して来る。

「ふふん!」

 ヒトミが鼻息も荒く不敵な笑みをキャラスーツの中で浮かべる。

 ヒトミのその自信ありげな笑みとは裏腹に、宇宙怪獣は前後左右上下全ての方向から同時に襲い来る。

 ヒトミがクォーク・グルーオン・プラズマを放った右手を静かに腰の辺りまで下ろした。左手もだらりと下げ両手を自然と下がるがままにする。

 重力に身を任せてたつ地上での自然体のように、ヒトミは無重力に身を任せて全身から力を抜いたように弛緩(しかん)した姿で宇宙に浮かぶ。

 海中で海に身を任せるようにヒトミは宇宙で無重力に身を任せる。

 そのあまりに無防備な様子に、じれたのかヒトミの耳元で焦ったような坂東の声が再生される。

「仲埜! 何をぼさっとしてる!」

「スーパー……」

 ヒトミが坂東に(こた)えずぽつりと呟いた。

 宇宙怪獣がそんなヒトミに容赦なく襲いかかる。最初にヒトミに(きば)()いたのはヒトミから見て足下から襲撃してきた宇宙怪獣だ。

 そんな宇宙怪獣を(さそ)うかの(よう)に、ヒトミは左を伸ばしたまま右足をすっと上げる。

 そして宇宙怪獣の(きば)が今まさにヒトミの左足に()みつかんとした時――


「スーパー・プラズマ・キック!」


 ヒトミが急激に左足をヒザから上に引き上げ、その反動で伸ばした右足を宇宙怪獣の顔面に()り込んだ。

 殴る蹴るだけでは吹き飛ぶだけだったはずの宇宙怪獣の顔が、ヒトミのその攻撃で吹き飛んでいく。蹴りこまれた宇宙怪獣は、くるくると残った胴体を回転させながら宇宙の向こうに飛んでいく。もちろん身をひるがえして戻ってくるようには見えない。

「何だ! 何をした、仲埜!」

「見てて下さい、隊長! そりゃ!」

 ヒトミが蹴りを入れた反動で身を回転させる。そしてその回転の勢いで今度は正面に来た別の宇宙怪獣に右の拳を繰り出した。

「スーパー・プラズマ・パンチ!」

 今度も技名らしきものを叫びながら、ヒトミは右の拳を宇宙怪獣の右のアゴに打ち込む。

 宇宙怪獣の顔が一瞬で(ゆが)み、やはり撃たれたように破裂し吹き飛んでいく。

「二匹目! 後、三十五!」

 宇宙怪獣をしとめた手応(てごた)えを確かめるように、ヒトミが突き出した右手の拳を更に握りしめる。その拳から放電のような光が()れ出ていた。

 ヒトミは今度も反動で身を回転させると右の拳を眼前に持って来た。

「いける!」

 その拳からはやはり放電のような光があふれるように放たれており、その光は先に放ったクォーク・グルーオン・プラズマと同じものだった。

「仲埜……まさか……」

 驚きの声を届けて来る坂東に、

「そのまさか――攻撃と同時にプラズマを放っているんですよ!」

 最後の一言とともに更に左の拳を繰り出しながらヒトミが(こた)える。

 今度もヒトミの拳に撃たれて吹き飛ぶ宇宙怪獣の顔面。その凶悪な恐竜然とした顔は、破裂する寸前にクォーク・グルーオン・プラズマの光に焼かれていた。

改訂 2025.09.04

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