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天空和音! キグルミオン!  作者: 境康隆
十、天衣無縫! キグルミオン!
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十 天衣無縫! キグルミオン! 12

「ヒトミ……そんなに、勢いよく回転したら……姿勢制御が追いつかない……」

 ヒトミの突然の激しい動きに、美佳が困惑(こんわく)の声を音声越しに伝えて来る。

「美佳! 姿勢制御はいいわ! 自動のヤツ! 切っといて!」

 ヒトミは宇宙で着ぐるみ然とした体を宇宙で勢いよく回転させていた。

 手を引っ込め足をそろえて小さく身をまとめると(するど)く回転を始めたヒトミ。そのヒトミの鋭い動きに襲いかかろうとしていた宇宙怪獣が警戒するように遠巻きに回り始める。

「……ヒトミ?」

「大丈夫! だから!」

 タイムラグ後に驚く美佳の返事を耳にしながら、ヒトミは今度は大きく手足を広げる。その動きにヒトミの回転が減速した。軸に対して小さくまとまって鋭い回転をしてみせたヒトミは、今度は大きく手足を広げることでその回転を(ゆる)める。

 ヒトミはそのまま二、三度手足を閉じたり開いたりして己の回転に強弱をつける。

「こんな感じ!」

 ヒトミはその動きに何か手応(てごた)えを感じたようだ。一人歓喜の声を上げる。

「美佳! 制御切ってくれた?」

「……うん……でも、手動はタイムラグが……」

「大丈夫! おおざっぱな感じで! こっちは、回ってればオッケーだから!」

 会話にもタイムラグが(はさ)まれて返って来る美佳の返事。ヒトミはそれに喜々として(こた)える。

「ヒトミちゃん? あなた本能でスピン安定を?」

 久遠の声がヒトミのキャラスーツの中で再生された。その声には驚きに唇が震える響きが混じっていた。

「はっ!」

 ヒトミは警戒にじれ襲いかかってきた宇宙怪獣に全身の回転を生かした回し蹴りを放つ。

 ヒトミの放った蹴りは宇宙怪獣の首筋に、そのくるぶしを叩きつけていた。宇宙怪獣が吹き飛ぶ反動でヒトミの回転が止まる。

「『スピン安定』? なんですか?」

 ヒトミは宇宙怪獣を蹴り飛ばした勢いで回転を止めるやその場で身構える。

「……衛星の姿勢制御の仕方よ。回転する駒が倒れないように、スピンすることで姿勢を安定させる人工衛星の姿勢制御方式。教えたことあったかしら?」

「ないですよ! よっと!」

 ヒトミは更に襲い来た宇宙怪獣に右の拳を繰り出した。宇宙怪獣の顔面にめり込むヒトミの右手。宇宙怪獣はヒトミから見て左に飛んでいき、ヒトミはその場で右に回転していく。

 だが自動制御が切られたバックパックは先と違いそのまま沈黙していた。先までならヒトミをその場に同じ方向に留まらせようとして()いた火が、今度はまったく沈黙している。

「この感じ!」

 ヒトミは右に流れるような回転に身を任せてあえてそれに逆らわなかった。前後左右はおろか上下も取り巻く()れなす宇宙怪獣。ヒトミは回転することでそれら一体一体にむしろ顔を向けていく。

 そしてヒトミは今度は斜めに体をひねり体を向きを伏せるように横に変える。

 ヒトミは今度は先と比べれば横を向いてに回転を始めた。だが元より上下左右も前後もない宇宙空間。増してや周りは今はどこを見ても同じ姿の宇宙怪獣の群れ。

 ヒトミから見て相対的な回転軸が変わらない回転は、すぐに先までの回転と区別がつかなくなった。

 ヒトミはそのことを確かめるようにしばらく今の向きで回転すると、方々に体をひねって回転軸の向きを自在に変えた。

 だが軸の角度を変えてもどこまでも同じ回転と宇宙が続く。

「うっひょうっ! 何かつかんだ感じ!」

 ヒトミは今まさに宇宙怪獣と世界をかけて戦っている緊張も忘れたのか、そのことに今度も歓声を発した。

「ヒ……ヒトミちゃん……」

 宇宙を自在に回るヒトミの耳元で久遠の困惑げな声が再生された。

「見ていて下さい、久遠さん! 来なさい! 宇宙怪獣!」

 ヒトミの呼びかけが真空中だというのに耳に届いたのか、警戒に周囲を取り巻いていた宇宙怪獣がその声を合図に一斉に襲いかかってきた。

「そりゃ!」

 ヒトミは一番早く近づいた一体にやはり拳を叩き込むと、そのままその反動を利用して体を回転させる。そして次に目についた宇宙怪獣にその回転の勢いで蹴りを放った。

 ヒトミの蹴りは宇宙怪獣の肩口に食い込むや、宇宙怪獣を吹き飛ばし自身の体はその反対に回転させた。

「いい感じ!」

 ヒトミは今度も反動に身を任せて次なる宇宙怪獣に攻撃を繰り出す。

 ヒトミは何かを勝ち取っていくかのうように、


「宇宙だ! 自由だ! 無重力だ!」


 宇宙怪獣に攻撃を繰り出す度に宇宙を自在に()った。

改訂 2025.09.03

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